Lambency

b



Pi Pi Pi

小鳥のさえずりとは違う、規則的な電子音が部屋に響き渡る。
眠りを妨げられたベッドの住人は身をよじりながら、憎き音源へ腕を伸ばして探る。
目覚ましを止めてから、異様に重たく腫れているのでは無いかと思われる程主張の強い瞼をこじ開ける。
部屋は霞んだ光で満たされていた。
意志とは裏腹にまどろむ瞳は覚醒を拒み、のなけなしの仕事への義務感を嘲笑う。
両手両足を伸ばせる限りの伸びをすれば、腕は半分も伸びないうちに壁へ行き着いてしまった。
(起きなければ)
ぎゅっと目を瞑り、今一度伸びをして起き上がった、筈だった。



あたり一面、緑と灰色とたまに土色の世界を風が通り抜ける。
(あれ、れ。夢の続きなのかな、でもこっちの方がしっくりくる)
草木は風にあわせるように姿をしならせ、目には見えない風を教えてくれる。
空は制服の様に青く高い(眩しいなあ)
私は見晴らしの良い場所に立っていた。
木以外に視界を遮る高いものはなく、とても穏やかで心落ち着く場所。
地平線と空の境界線がはっきりしていて、麦藁帽子を被った可憐な白いワンピースの女の子が似合いそう。
また向こうで草木が靡いた。
来る、と思った瞬間に、何も来なかった。
しかし、足元の花は確かにそよいだ。
人っ子一人いない場所で、私は寂しくなって誰かを探した。
見晴らしの良すぎる場所にもかかわらず誰も見つからない、そして余計に寂しくなる。
たった一人の人間が佇むにはあまりにも広すぎる。
吹かない風、誰もいない場所に不安になって、自然と視線が下へ向く。
急に平らだった世界に障害物が現れた、否、急ではなくて私が気がついていなかっただけで元からあったんだろう。
規則正しく並んだ大きさが均一の石版は遥か先まで続いている。
そう、ここはまさに墓場。
良く見れば、自分の立っている横の列は盛ったばかりで土があらわになっており、上には花束が置いてある。
そして、私の足元にも。
はっとして、急ぎ飛びのいた。
人様の墓の上に立つなど、あまりにも罰当たりだ。
死者にどう謝ったら届くか分かる筈も無いとは理解しつつも、謝りたくなるのが心情である。
せめてもと思い、墓標に目をやった。

ゴォ

大きな音と共に花束の花が揺れた。
肌には当たらずとも、髪が靡かずとも、文字通り私を風が通り抜けて行ったのが分かった。
そこに記されていたのは、







――見間違いようの無い、私の名前。
私は、私の真新しい墓の上に立っていたのだ。

(風は感じない筈なのに、背筋が冷えた)



標・b


改定:2010/02/26