言霊人
夢の話(拍手02)
桜が咲き、泣きたくなるほど見事に散り、霞の様な形の淡い色から微笑ましい緑が混ざり始める。肌寒いというよりも心地よい風が首筋を撫でて行き、思わず目を細める。はっきりとしない青空と白い雲がゆっくりと流れ、さわさわとそよぐ風にあわせて緑と桜色が視界にちらつく風景、まさに風の景(かげ)の姿。目を閉じても感じる風は懐かしさを感じる甘い香を引き連れて通り過ぎる。日当たりの良い縁側は日向ぼっこに最適で、柱にいくらか体重を預け、小鳥のさえずりに耳を傾ける。
麗らかな春の陽気は優しい気持ちと穏やかな眠気を誘うもので、私は見事に誘われてしまった。
「――、、」
名前を呼ばれて重たい瞼を致し方なく開けるが、イマイチ認識能力の方が良くない。手の甲で目をこすり、なんとか覚醒を試みるものの完全じゃない意識がまどろっこしい。
「。……ここで寝るのは良くない」
溜息交じりの聞きなれた声。耳に程よく馴染むその音は決して嫌いになれない。けれど、忠告は瞬時に覚醒を呼び起こすもので、驚くほどの勢いで全てが起動し始める。
「え、あ……私、」
寝てました?、声にする前に春と同じくらい柔らかい笑みが目の前で浮かぶ。
「気持ちよさそうに寝てた」
「……寝ちゃいましたか。すみません」
陽の位置は随分と変わっていたようで、既にこの縁側は日陰になっている。寝ているときは気がつかなかったが、僅かに肌寒く思わず両腕を抱えてさする。タイガ様はどうやら帰宅したばかりらしく袴姿である。
「風邪をひく、寝るなら部屋で、」
「いいえ、そんな寝てばっかりではいけませんから」
「……そうだな」
苦笑したタイガ様が優しく手を差し出し、立ち上がるのを助けてくれる。私ははにかみを隠し切れない。
「ありがとうございます。……おかえりなさいませ、タイガ様」
「ただいま、」
「お着替え手伝います」
「ああ」
とスヨウがチラリとあたりを気にしながら声を潜める。
「という夢を見たんですよ。どう思いますか、スヨウ様」
「気味が悪いな。何より優しすぎるタイガが」
「笑顔がとても素敵でしたよ」
「……とはいいつつお前も気味が悪いと思っただろ」
「率直なところ、若干は」
「だろーな」
「さっきからお前たち二人はなにをこそこそ話しているんだ」
「うるせーよタイガ、お前には関係ねえ」
「やっぱりこれぐらいがしっくり来ますね」
「だな」
2010/04/27(再掲載:2012/09/23)