Lambency
寒い日
「さっぶい!」
ぐっと腕を身体に引き寄せ、は自分を抱きしめた。
たいした距離ではないのだから上着を羽織るまでも無いだろう、そんな甘い読みをしていた今の自分を呪いたくなっていた。
現在の格好は半そでの制服の上に紺色のカーディガン一枚。
刺すように冷たい風が腕を貫いていく。
手渡さなければならない書類はしっかりと胸に抱けども発熱体ではないそれは、僅かに外気を遮断してくれるだけである。
ガチガチと歯を鳴らしながら、あーあーと意味の無い言葉を吐き出す。
吐き出された息が真っ白になるのを見て、より寒さが増したような気までしてしまう。
そんな冷たさを振り払うためにもは小走りで目的の場所へ向かうも、吸い込む空気が冷たく肺が痛くなる。
「さーむーいー」
やっとの思い出たどり着いた建物内はとても温かく、今のには楽園にも等しかった。
無事手渡すという仕事を終えて自分の職場へ戻るだけとなってしまった。
外へ再び飛び出すという行為に戸惑いを覚えずには居られなかった。
扉の前でゆっくり一度深呼吸して温かい空気を胸に出来るだけ多く留めておく。
(これほど名残惜しくなる空間があるとはなあ……)
決意を小さいな声で呟いて、は雄雄しい一歩を踏み出した。
「・、行きまーす!」
「卿はそこで何をしているんだ?」
突然降ってきた声にぐっと力強い一歩を踏みしめ、ゆっくりと振り返る。
「寒いのに相変わらず元気そうだな」
は急ぎ端にずれてから敬礼し、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「ミッターマイヤー提督、寒いので相変わらずの元気はありません」
「確かに寒そうな格好をしているな。コートはどうしたんだ?」
「そんなに距離が無かったので大丈夫だと油断しました」
「寒さなんて距離に関係なく寒いだろう」
「全くです。文字通り身にしみています」
の言葉にその通りと言わんばかりにミッターマイヤーが何度か頷いた。
「そういえば、俺はまだここに用があるが、ロイエンタールはもう戻るはずだったな。あいつも俺も車で来ているからな、乗せていってもらえば良い」
どうだ?と笑顔で提案してくれるのはありがたいがは顔が引き攣らない様にするほうが大変だった。
「あーっと、えーっと、急ぎダッシュで帰らなければいけない理由を思い出したので、失礼させて頂きます。せっかくのご好意ですが……」
くっと堪え切れなかった笑いをミッターマイヤーが零した。
「用事ではなくて理由を思い出したのか……!」
これこそ『しまった』という後悔の表情をが浮かべた。
視線は右へ左へ忙しなく移動する。
「あ、あ、あー、ミッターマイヤー提督。私は閣下のことを上司としても、エヴァの旦那様としてもとても尊敬しています」
「急にどうした」
「そういえば、この間エヴァがこう寒い時期はどこか暖かいところへ旅行とか行けたら素敵だなって、言ってました」
「……そうか」
「そうです。あと、どうやら具体的に行ってみたいところがあるようでした」
「……聞いていないぞ」
「わざわざ言う必要は無いと考えているようでした。……ロイエンタール提督に、さっきのことは、」
「……分かっている、別にわざわざ言わん」
「ありがとうございます」
では失礼致します、はそう言ってミッターマイヤーの前を辞した。
勢いだけで外に出、「ひぃ!」と情けない声を上げ腕をさすりながら小走りで去っていった。
後ろに控えていたバイエルラインが遠慮がちに、を見送っていたミッターマイヤーに声をかけた。
「閣下、今の者が噂の」
「そうだ。……寒いのに相変わらず元気だな」
2012/04/27(再掲載:2012/09/23)