Lambency
小話
「そういえば、貴様も女だったな」
「今思い出したみたいに言わないでください」
「悪かったな、今思い出したのだ」
「……」
「どうした」
「……提督に素直に謝られるとなんか鳥肌が」
「ずいぶんと失礼な物言いだな、俺だって非は認める」
「先に失礼だったのはどちらですか」
ふう、と双方が同時に溜息をついた。まさかの遭遇以来、妙にエンカウント率が高いのはの気のせいではないだろう。そして例に倣って、少し帰りが遅くなった今回も、来るまで宿舎まで送ってもらっていた。数をこなしているうちに、もちょっとずつ彼ロイエンタールのあしらい方も分かってきてた。彼は彼で思い出したことの続きを、横目でを一瞥した後、話し出した。
「女は何故、雷がなったり風が荒れたりしたとき、枕に抱きついたりするんだ」
「抱きついている女性に直接聞いてください。私は雷も風も怖くないので」
「つまらん」
先ほどの溜息にも劣らない、深い溜息をが吐いた。それ以降、車内は静かになり、唾を飲み込む音さえもやけに大きく聞こえてしまうのが、嫌になり今度は小さく溜息を吐く。ロイエンタールは本当につまらなくなったのであろう、窓の向こうに視線をやっていた。
「枕は、枕だからじゃないですか」
自分の中で一つの答えをとりあえず見つけ出したは声に出してみた。沈黙の中、答えを探してやった自分に感謝して欲しいと思うがさすがにそれは口に出さない。「ほう」とロイエンタールの視線が車外から自分に移動した。
「……深層心理とか言うんでしょうか、詳しくは知りませんが。人間やペットって、生き物じゃないですか。それに対して枕やぬいぐるみって生きていないからこそ、抱きつくってあると思うんですよね」
「生物じゃないからこそ?」
一度が首を傾げる。少し間を取り、自分の中で言葉を整理してみるがすっきりするものが見つからなかった。より一層馬鹿にされてしまうな、と分かっても説明しきれ無いのはもっと心残りになるだろう。自身の中に解答はあるのに、上手く説明できないのは自身の表現力が乏しいから。もっと本を読まないと、など見当違いな考えに行き当たりながら話を続けた。
「はい。生き物って生きてるから自我があって、言い方が悪いですが、いつ裏切るか分からないじゃないですか。けど、枕は逃げ出しません。いつだってそばに居てくれますから。何かあったとき自分をおいて逃げ出さないって保障を人間は出来ません」
「……」
「……と、いうのが私の考えですが」
「悪くは無いな」
思いがけない褒め言葉にチラリと視線をあげれば、ロイエンタールと合い、固まってしまった。皮肉では無く、本当に多少なりとも感心してくれていたようで、すぐさまこそばゆくなり視線を外した。新しい発見であった。バカにこそしてはいなかったが、有能で切れ者であっても人のことを見下しすぎていて尊敬出来ずにいたが、それこそ間違いであったのだ。彼は自分で見たものしか信じないし、人を根本的に――特に女性を――信用していない。だが、一度認めさえすればそれに見合った信用と信頼をそして尊敬を示す人なのだ。だからこそ年下の元帥閣下にも忠誠を誓えるのだ。自分こそやっぱり見る目が無いなあ……と三度目の溜息が零れてしまう。見目麗しいだけでなく、見事な手腕を持つ提督に送ってもらうとはなんて恐ろしいことを。女性のみならず、彼に憧れ尊敬している部下たちからの奇襲すら今後は用心しなければならない日が来るとは。
(なんとまあ、緊張感溢れる日々なことだろうか)
雷と枕の話
2012/09/22
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