言霊人
初めてのお手伝い
「、かまどに火をつけておいてくれないか」
その一言と、火打石と火打金のセットを置いてタンダは外へ行った。ポツンと取り残されたは一人呆然とするしかなかった。
は出来ることがあるならば手伝いをしたいと今朝申し出たばかりである。しかしガスコンロ育ちという、文明の力に頼りっぱなしであったにはあまりにも難題であった。とりあえず見よう見真似であっても挑戦してみるべき、と火打石と火打金をぶつけてみた。するとカチカチと火花は起きるもののそれだけである。ならばとかまどの中に手を入れつつやってみるものの上手くつかない。それも当然である、かまどの中には灰しか無く火花が着火するものが無いのである。はそれに気づかず、幾度か挑戦してみるが着かないために他の方法を考えることにした。着物に土がついてしまうことも気にせず、かまどの前で正座をしてみる。家には以外だれもいないために沈黙が広がる。はそれが虚しくてならなかった。願わくば、パチパチと薪が爆ぜる音を聞きたいと思った。けれどそれも当然のことながら、あくまでも願いであって、それだけで火が着くはずもないのである。は思わず溜息をついてしまった。じっとかまどを見つめ、何かを期待するような視線を送る。
「かまどさん、かまどさん、どうやったら火が着くのですか」
「かまどさん、かまどさん、いつも美味しいご飯ありがとうございます」
「かまどさん、かまどさん、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですがよろしいですか」
己の発言に、虚しさは極限に達してしまい泣きたくなったが必死に堪えた。どうして他の方法が全く思いつかないのだろう。何故ここまで自分は無力なのだろうか、心の中で問いかけてみる。けれど当然答えは決まっている。自ら手伝いをしたいと言っておきながら、これほどまでに初歩的なことすら出来ないのである。己が情けなくて仕方が無かった。
タンダが天日干しにしておいた薬草の回収を終えて家に戻れば、入ってすぐの土間でがタンダの帰りを待っていたかのように正座していた。事実はタンダの帰りを、反省の意味をこめて正座して待つことにしていたのだ。タンダは思わず薬草の入ったざるごと落とすところであった。
「どうしたんだ、」
「ごめんなさい」
困ったようにタンダは微笑んでから、頼んだかまどに目をやった。ああそれでか、と納得して、反省の負の雰囲気を余すところ無く出しているの頭を撫でた。一旦ざるを置いてからタンダはいまだに土間に座り込んでいるに腰をかがめて視線をあわせた。
「」
「ごめんなさい……」
「火のつけ方を知らないなら仕方ないさ、教えてやるから一緒にやろう」
「はい」
申し訳無さそうに、けれどやる気のある瞳で頷いたの頭をもう一度タンダは苦笑しながら撫でた。
(2009/03/24)
タンダにはよき兄であってほしい