Lambency
日常
「ほお、確かに菓子と紅茶とだな」
「軍曹を最後に置いては悪いですよ。メインが軍曹ですよ」
急患のためにロックされていない扉が開き、誰か帰ってきたのかと思えば見覚えのありすぎる提督方。
彼らに見られてしまった私の姿といえば右手に紅茶の入ったマグカップ、左手には本日のデザートであるパウンドケーキが一切れ乗ったお皿。
私の顔には「しまった!」と書いてありビッテンフェルト提督に散々笑われたことは言うまでも無いだろう。
お昼の時間後半に行けば軍曹と二人きりでお茶が飲める、ただしそれは先着順である――。
運がよければ手作りのお菓子までつくらしい。
女性に飢えた野郎たちの中でささやかれている噂。
どこからかそんな噂を仕入れ、真相の程を確かめるため行く途中ミュラー提督にも出会ったからついでに連れてきた、そして今に至るらしい。
「なるほどです。要約するとビッテンフェルト提督もお茶をしに来たということですね」
と一緒にビッテンフェルトの説明を静かに聞いていたミュラー提督が小さく噴出した。
ビッテンフェルトは首をかしげるがどうでもよさそうに豪快な笑みを浮かべた。
「話をどう要約してもそうにはならないが、せっかく来たんだ、卿の茶を飲んで行きたいところではあるな」
「喜んで。今用意しますのでこちらでお待ち下さい」
待合室を通り抜け事務室奥にあるソファへ導き、準備し始めた。
「するとこれは軍曹の手作りなのか」
レーズンだけのシンプルなパウンドケーキ。
それを二人に、ましてやミュラー提督に美味しいと評価してもらえては満面の笑みである。
「はい。暇なときとかに作ってたりしまして」
「なんだ、これは持ってきてくれては無いではないか」
「ええと、中途半端に数枚切ったものを持っていくのもなあ……と思いまして」
「俺は構わん」
「ビッテンフェルト提督は軍曹のお菓子をいつも頂いているのですか?」
「どうやらいつもでは無いようだ」
ビッテンフェルトか真面目そうな顔で肩を竦めて答える。
大の男が二人でお菓子談義、というのは妙に違和感有る絵である。
出来ることならビッテンフェルト提督を退かして、自分があの位置に座りたいものだ……なんて下心は隠しておく。
そもそもミュラー提督と二人きりでとはいかないものの、一緒にお茶を飲めるなんてラッキーなのである。
ビッテンフェルト提督がいるからこそいつもの調子で接していられるのだから感謝しなければいけない。
だがしかし、ミュラー提督に妙な誤解を与えるのは事実がどうであれ不本意なので説明をしなければなあと私が思うより早くビッテンフェルト提督は続けた。
「以前用があってきたときにも一緒に茶を飲んでな、その時次回から作ってきたら寄越すよう頼んだのだ。ふっ……女子から菓子を貰って嬉しいのに歳は関係ないからな!」
「まあ確かにそうですが、それでは軍曹が可哀想ですよ」
「そうか?悪かったな。だが、お前はそんなこと気にするような奴ではあるまい」
「そうですね。それにビッテンフェルト提督ですし」
「ということだ、ミュラー」
納得しきれず困ったように笑ったミュラー提督に胸がきゅんとなる。
にやけを隠せそうに無いので残り少ない紅茶に口をつけて誤魔化した。
「で、噂の真相はどうなんだ?」
「へ?……あはい。以前相談に乗った時にですね――」
(さてどのタイミングで「ミュラー提督にも今度から持って行きます」と言えるかな)
2010/07/04