[制服]

「ほお、白を着ればちゃんと衛生兵に見えるではないか」

が少し離れた会議室で行われた検診の書類回収へ行った帰りでのことである。
彼女が振り向いた先には、ビッテンフェルト提督と彼の幕僚であるオイゲン大佐が歩いて向かってくるところであった。
少々失礼なことを言われた気もしたであるが、ひとまず上官である二人に敬礼をした。
彼らも慣れた仕草で返礼をする。
オイゲンがへ申し訳無さそうな視線を送っていることに、 彼の一歩前を行くビッテンフェルトが気づくはずも無く、言葉を続けた。

「しかし白なんぞ着たら、すぐに汚してしまいそうだな、特に軍曹は」

普段のであれば皮肉の一つでもすぐに返せたことだろう。
しかし、彼女自身、白い制服について同じことを思ったことがあるため、ぐっと押し黙る。
そんなの反応に違和感を感じたビッテンフェルトは眉間にしわを寄せた。

「……正直、悔しいのですが、反論できません」

がっくりと効果音がつきそうな様子では肩を落とす。
はあ、と溜息をついた後、何かを思いついたのか背筋を伸ばしてビッテンフェルトを見つめ返した。

「でも!なんとまだ、汚してないんです!」

褒めてくださいと謂わんばかりに胸を張って言うに、ビッテンフェルトは笑いながらの肩を叩く。

「そうか、凄いではないか!しかし、一体いつから着ているんだ?
この間診療所へ行ったときは確か着ていなかったな」
「はい、その翌日からです」
「ほう、ならばもう六日も無事なのか、大したものじゃないか」
は幾度も大きく頷き、ビッテンフェルトは腕を組み大きな声で褒めてから、目の前の女性を見る。
一度緩みかけた口元を引き締めなおしてから、口を開きなおした。
「しかし、貴様の黒髪と白衣が良く似合っているではないか。
デザインは男ものと少し違うな。まるで貴様のために誂えたようではないか」
「誂えてもらいましたから」

ビッテンフェルトとオイゲンは素直に驚きを顔に出した。
は苦笑してから、「半分は冗談です」と肩を竦めれば、
「半分は本当なのか」と再び驚く彼らに曖昧な笑みを送ってから注釈を加えた。

「どうやら小官が女性としては初の衛生兵であるらしく、意見をとてもよく取り入れて頂けたのです」
「なるほどな。ならば色についても言えばよかったであろうに。
黒も悪くはなかったぞ」
「悪くはなかった、ですか。そこは素直に似合っていたと仰ってくださいよ」

わざとが拗ねたように言えば、ビッテンフェルトは「なっ…」と声を一瞬無し、一歩後ろに下がる。
『黒色槍騎兵(シュワルツ・ランツェンレイター)』の司令官は、自身の慌てを必死に押し殺しながら下がった一歩を前に戻す。

「やっ…、だが、白の方が貴様の黒髪が良く映える。
そうだ、貴様は白の方が、似合っておるぞ」
「私一個人としては黒の方が好きなのですが、そう言っていただけると嬉しいです。
あっ、『帝国のナイチンゲール』と呼んで下さっても構いませんよ!」

オイゲンは耐えられず肩口に笑いを噴出した。

(嗚呼、どんどん自分が馬鹿になっていく……)
幕間

09/08/01