[一期一会]

は個人的に参加した看護師会の講習を終えたばかりであった。
オーディンでも一番の大きさを誇る帝国立の病院も、外が暗くなる時間帯では人もだいぶまばらになっていた。
だからこそ、数メートル先を行く、軍服の彼の歩き方が気になって仕方なかった。
この辺一体は怪我した軍人が入院するエリアとなっているため、軍服姿が目立つという訳ではない。
その彼の前を歩く初老くらいと思われる人物は、後姿だけなので確認できないが、
制服のデザインから高級士官であることは容易に推測された。
高級士官はとある一室の前で立ち止まり、副官であろう彼に声をかけ、廊下に待機させて自身は部屋の中へ消えた。
は今がチャンスだと思った。
廊下の壁際に姿勢正しく起立している彼の前まで行って声をかけた。

「すみません」

副官と思しき青年は、私服姿のに礼儀を持って接した。

「どうかされましたか」
「おせっかいだとは十分承知しているのですが……」

逡巡し口ごもるを何も言わず待った。
甘いハンサムな彼が纏う雰囲気は穏やかであり、不快にさせるものではなかった。
時間にすればほんの数秒であろう、しかし制服では無いに自信は無く、とても長いものであった。

「……足、靴擦れを起こしていらっしゃいませんか。良ければ、使ってください」

がかばんのポーチから取り出しておいた絆創膏を差し出す。
一方、彼の方は驚きつつ、気付かれていたことに少し頬を赤らめた。

「気付かれていましたか……。ありがたく、頂戴いたします」

想像以上に素直な青年には『青年』を『好青年』にこっそり昇進させた。

「実は先日、靴を新しくしたばかりでして。お恥ずかしい限りです」

彼は少々困ったように髪を撫でた。
セツナは自分も軍人であることを名乗るべきか一瞬悩んだが、止めた。
もし縁があった場合は、この好青年と再会したときの話題にすることにした。

「早く貼らないと、より酷くなってしまいますし、靴擦れ痛いですよね」

肩をすくめてセツナが笑えば、彼も同意するように苦笑した。

「では、お大事にしてください」

単純に良いことが出来たという高揚感を胸に、彼の前を辞した。
街頭の明かりで霞む星空を見上げ、セツナは心の中で星に願った。
(再会できたときには良い関係が築けますように!)



しばらくして退室してきたメルカッツにシュナイダーはこの話をした。
すると眠たそうな渋い顔に僅かな呆れの表情を浮かばせた。

「卿は何故そのフロイラインの名を尋ねなかったのだ。人との縁はこの様にして始まるものだ」

彼、シュナイダー少佐は見透かされてしまった真実に、本日二度目の赤面をする羽目になった。
数年後、彼とは互いに大きく立場が変わった姿で、このオーディンで再会したとシュナイダーの日記から分かっている。
だが簡潔に記されており、感情は一切交えられていない。
幕間

09/08/14
甘いハンサムさんは貴族のご令嬢にチヤホヤされているからこそ、この出会いが新鮮なものであって欲しかったり
ついでに、私の中で彼は結構「熱い」漢です