[マーケット]

今日の夕飯はレトルトのミートソースにスパゲッティの手抜きでいいかな、かごを片手には一人食卓を思い描いた。

明日の分の買い物をしている時だった。
よく見慣れた高級士官の制服がの数歩先を横切ったのである。
彼女は己の目を疑った。
その場に立ち止まり幾度が瞬いた。

「あれ?」

自分の中の偏見が思考の道を塞ぎ、
納得のいく答え得られそうに無かったため『気のせい』で片付けることにした。
しかしそれも、すぐさま否定された。
行き着いた出来合いもの売り場でその姿を今度はしっかりと視認してしまったのである。
は再び瞬いた。

「あれれ?」

極力顔の表情を変えないよう勤めながら、彼女も出来合いを見に行く。
気になってしまうのは致し方ないと心を諭し、も明日のサラダを探す。
パスタサラダ――は今日の夕飯と被る、コールスローは昨日食べた、
いっそ自分で春雨サラダでも作ろうか――、いいのがあったポテトサラダにしよう。
が容器に容れられたポテトサラダが幾つも並んでいる中から一つ取ったのと同じタイミングで、
横にあったポテトサラダも取り上げられた。
あまりにもタイミングが合った行動であったため、は思わず横にいた人物を見た。
先ほどの高級士官であった。
彼も同じように横にいたを見たため、二人はほぼ同じ姿勢で一瞬固まった。
当然立ち直りが早かったのは彼のほうであった。

「すまない、俺がいて驚いただろう」

はっとしては急いでポテトサラダをかごに容れてから敬礼をする。

「申し訳ございません。その、失礼致しました」
「プライベートの時間だ、敬礼は無しにしよう。何より場所がスーパーだ」

自分の台詞にか、彼は苦笑した。
の頷いて、手を下ろした。

「俺の様な人間がマーケットで買い物しているのに驚いたのだろう?」

先ほどまで疑っていた存在に、気になっていた話題を振られたことには思わず飛びつきたくなった。

「素直に言ってしまえば、非常に気になっていました」
「実に素直な答えだ。なら俺はそれに答えを提示するとしよう」
「ぜひ聞かせてください」

下士官と高級士官がマーケットのかごを手に、他の出来合いを見ながら話し始めた。

「俺の家は貧乏貴族でな、食うために軍人になっただけさ。今でも自炊は良くやっている」
「……、はあ」
「どうした、何か不満でもあったかな」
「いえ、私も似たり寄ったりな理由で軍に入ったので、まあそこはいいです。
ですが、なんかこう、敗北感にも似てる気もします」
「敗北感?」
「高級士官で、自炊が出来て、優秀で、自分とは違うなあ、と」

高級士官の彼が面白そうに笑みを浮かべた。

「羨ましいと思うか」
「……正直、思いません」
「本当に素直だな……。だが、そういうことだ。
俺は高級士官になりたくてなったが、貴官はなりたいなど思っては無さそうだからな」

他にも安い店や質の良い店の情報交換、荷物が重いときの苦労話に充分に花を咲かせてから、
レジを済ませ、かごがマイバッグに代わったところで二人は別れた。

「気をつけて帰れよ」

去り際に言われた言葉が、を懐かしい気持ちにさせた。
街灯が星を霞ませる夜空を見上げて、は互いに名乗っていないことを気がついた。
しかしなんとなく、その必要がないと感じていた。
たぶんそう遠くない未来で再会出来る気がしていたのである。
貴族側が何をしだすか分からないので、外出時は気をつけろと注意が出ていた事を同時に思い出した。
白い衛生兵の女子の制服は直ぐにの身元が分かるため、最近通勤時には一般の黒い制服を着ていた。

「車に轢かれないよう注意しなくちゃねえ、暗闇仕様の迷彩服だよコリャ」

(気がついたら白い制服が私に馴染んでいた)
幕間

09/08/17
はファー様とスーパーで出会った!
若干ヒロインの口調がちび○子みたいになっているのは、私が静岡から帰ってきたばかりの時に書いたからです
2010/11/11(タイトル変更)