私的まほろば
わたしががんばるとき 後
「久しぶりだな、佳主馬。どうしたそんな怖い顔して」
「りいちおじさんのせいだ」
理一が佳主馬の頭を撫でてやるものの、佳主馬は嫌そうに頭を動かした。うさぎをきつく抱いたままどうやら不機嫌である佳主馬に理一は心当たりが無くて首を傾げる。しゃがんで目線を合わせると、必死な少年は今にも泣きそうな表情で怒った。
「おじさんがおそいのがわるい!」
小さな身体を怒りに震わせながら、2倍以上の身長と体重を持つ理一を引っ張った。僅かにバランスを崩しかけた理一だが、すぐに立て直して急いで靴を脱ぎ捨てた。なんともつらい姿勢のまま理一は佳主馬に引っ張られながら早歩きでついていった。
どこからか、あまりそう遠くないところから、大好きな声がの鼓膜を刺激し、覚醒を急かした。重たい瞼をゆっくり開けば久しぶりな光にまた目を閉じてしまった。声の方へ寝返りを打ったとき、額から濡れた何かが落ちたのを感じ、触ってみればタオルであった。ひやっとするタオルを頬に乗せると気持ちよかった。
「、起きたか」
そうだった、と頑張って再びあけた瞳の向こうには胡坐をかいた理一と膝の上にのった佳主馬。理一が絵本の続きを読んであげていたところであった。佳主馬はちょこんと理一から立ち上がっての枕元までやってくる。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
続いてやってきた理一はそっとの額に触れた。冷たい理一の手が心地よいのか、それとも嬉しくてなのか判断がしづらい表情では笑った。
「まだ熱があるな。治ったら遊んでやるから、ゆっくり休むこと、いいな」
「……佳主馬ばっかりずるい」
呆れたように理一が頭を撫でた。
「うそだ、いつもおねえちゃんばっかりだ」
「ばっかりじゃないもん……」
熱で普段よりも心も弱っていたの涙腺が一気に熱くなった。溢れてきた涙が頬を伝って枕を濡らして行く。片手は涙をぬぐい、もう片方の手は理一の右手をつかんだ。
「おねえちゃん、アライグマみたい」
「懐かしいな、泣き虫ってよく呼ばれてたな、お姫様は」
「おねえちゃん、おひめさまなの?」
「俺が王子様だから」
きょとんとした表情の佳主馬を理一は笑って空いているもう一方の手で頭を撫でた。
「子供がいるって大変ですね、兄さん」
いつからか廊下に立って見守っていた太助に理一は声をかけた。
「かわいいもんだろ、俺の娘だから馬鹿だけどな。あ、責任はとれよな」
「とりあえず今日の分はちゃんととってますよ」
いつの間にか夢の中に沈んでいたを右手に、絵本をもう一度とせがんでくる佳主馬を左手に、理一は自分の状態に苦笑した。
(10/02/17)