私的まほろば
わかむらさき
「若紫ぃ?」
驚き呆れている太助に理一は笑いながら頷いた。彼の視線の先には佳主馬と一緒にぬいぐるみで遊んでいるがいた。佳主馬はうさぎ、はアライグマと、それぞれぬいぐるみをを持っている。なにやら言い争っているようにも見えるが、話の内容がイマイチ分からない。
「はいい女になるよ」
「いやね、お前もいい年なんだからさあ。まあ、の面倒を良くみてくれて助かってるけど。それにもお前にどっぷりだしなあ」
「懐かれると余計可愛い」
「あまり甘やかすなよ、まったく、何かあったら理一理一で煩いんだから」
「ははっ、そりゃ紫の上になるのが楽しみだ」
「お前なあ……」
太助ががっくりと首を垂れた。そんな時、タイミングよくの大きな泣き声が家中に響いた。すぐさま続けて佳主馬も泣き出した。太助は振り返り、泣き虫っぷりには定評のあるわが子を見た。どうやらぬいぐるみで遊んでいるうちに喧嘩になったらしく、互いに喚きながら言い争いを続けていた。話を聞くのもなだめるのも、まずは泣き止ませるのが先決であると判断した。
「、どうした?佳主馬も。ほら、二人ともおいで」
がばっとが立ち上がりアライグマを抱いて大人たちのもとまで駆けてきた。
「ほーら、、って……」
は父親の横を素通りし、一人掛けのソファにー座る理一にしがみついた。理一がそっとを抱きしめ、頭を撫でながらなだめる。はあ、とこれ見よがしに溜息をついた太助は仕方無さそうに立ち上がり、佳主馬の担当に回った。
「さっきまで仲良く遊んでたのに、急にどうしたんだ?」
「佳主馬が、アライグマは、泣き虫だって、言うんだもん」
しゃっくりと交互に言葉を吐き出し、言い分を言ってすっきりしたのかより一層涙をぼろぼろと零す。
「泣き虫じゃないー!」
「でも、は泣き虫だな、これじゃあ」
「泣き虫じゃない!」
違う違うと腕の中で泣きながら暴れるを理一は苦笑しながら見やる。これでは全く説得力に欠けるな、なんて事を考えつつも、なだめるために再び頭をゆっくり撫でてやる。
「理一おじさんなんかだいっきらい!」
「……これは困った、若紫に嫌われてしまったか」
ははは、と笑いながら今度は自分の頭をかく。腕が緩んだ隙を見て、は理一から数歩離れて泣きつく他の大人を探す。けれど自分の父親は佳主馬をなだめており、どうすればよいのか分からなくなりその場に棒立ちのまま泣き続ける。
「、俺のこと本当に嫌いか」
「ちーがーうー、嫌いだけど大好きー」
何を言っているのか、一番分かっていないのは本人であろう。理一は席を立ち、ふあっとを持ち上げて抱っこした。さっきの事など忘れては理一の首にしっかりしがみつく。
「だろうなあ、若紫が俺を嫌いになれる筈がない」
「……わかむらさきってなあに」
「のことだよ」
「あたしのことー?」
理一に抱っこされて、だいぶご機嫌が戻ったは理解できずに首を傾げる。そこへ佳主馬を抱っこした太助がやってきて、うさぎのぬいぐるみを理一の背中に投げつけた。
「下らないことは教えなくていいから」
「ぼくのうしゃぎしゃーん!」
「いや、これが面白い」
「うちの娘で遊ぶなって。ほら、変なおじさんと一緒にいないでもこっちにおいで」
「いやだ」
大事なうさぎを投げられて再び泣き叫び暴れる佳主馬を片手で抱き、もう片手を空けた太助の誘いをはばっさり切り捨てた。
「理一おじさんといる」
(10/02/21)