私的まほろば

ホットレモン

夜もしっかり深まった頃、理一は自室へ戻るため冷え切った廊下歩いていた。力関係で風呂に入る順番を決めた結果、最後となり他の人間はもう寝静まっている時間である。風呂上りにも関わらず、深々と下からの冷気に足が冷えていく。

(ん?)

角を曲がり、後は部屋まで一直線という場所まで来た時、僅かに空いたふすまの隙間から光が漏れている部屋を見つけた。その部屋といえば、可愛い可愛いお姫様の部屋。理一はほんの少し悩んだ末、ふすまを軽く叩いたが返事がない。気がついていないのか、それとも無視されたのか。理一はもう一度ほんの少し悩んだ末、そっと隙間から部屋を覗いてみた。そこから見えたのは、机に突っ伏して寝ているの姿。ふっと微笑んだ理一は戸惑いも無く部屋に入り、の寝顔を覗き込んだ。顔に痕を残しながら穏やかに規則正しい呼吸をしていた。風邪をひいて困る上に、この姿勢で長時間は寝づらかろうとの肩を多少揺らしてもすっかり寝付いていて起きそうもない。

「おやおや、これはどうしたものか」

机の上には勉強中だったのか、参考書やノート、お供の飲み物にその他筆記用具類が広げられている。煮詰まっているうちに眠くなったのだろう、もがいた跡がわかるも中途半端な答えで終わっている部分がある。従姪の着ていた半纏をそっと脱がすと、んーやらむーやら言葉になっていない何かが帰ってくるも目を覚ます様子はない。そのまま優しく抱き上げ、眠くなったらすぐ寝れるように準備していたに違いない、出番を待っていた布団に寝かし羽根布団をかけてやる。

「ん……」

は寝ながらも布団と理解したのが、自分の気に入る高さまでズルズルと掛け布団をひっぱり被る。そんなあどけない様子に理一は思わず笑った。

「おやすみ、
「ん、おやすみ、なさ、い」

たどたどしく返ってきた言葉に驚き、起こしたかと不安になったがどうやら寝言だったようだ。柔らかく頭を撫で、髪を梳くもやはり起きる気配は全く無かった。机の上にあったマグカップには冷め切ったホットレモンをふと思い出す。貴様は冷めても『ホット』レモンと呼ばれるのかと、内心苦笑しつつあくびする。無防備に眠る彼女は、この家にいるから無防備なのか、どこでも無防備なのかは分からない。前者だと嬉しいが、ただなんとなく後者な気がした。親戚という枠の中にいる自分なのだから、どうあがいたって彼女が自分の傍にいる限り、他所向きの彼女を知るのは難しい。もはやわがままは言うまい。親戚として素直に甘え頼ってくるのを、親戚として全力で受け止めてなにが悪い。そして全力で甘やかしてなにが悪い。

理一はマグカップに残っていた冷めたホットレモンを一気に飲み干した。

【ホットレモン】

甘くてすっぱい


(2012/06/30)