私的まほろば
佳主馬
「お姉ちゃーん!」
カブトムシの角を掴み満点の笑顔で駆け寄ってきた佳主馬には絶叫した。
全身全霊、持てる力を全て注ぎ身体中から絞り出した声を出せるところまで出したところでは泣き出した。せっかく大好きなお姉ちゃんにも見せてあげようと、意気揚々と来た結果がこれである。一緒に喜んでもらえると思っていた佳主馬もショックとの気迫に自然と涙が溢れ出てくる。片手で後ずさろうとするの服を握り締め、もう片手はカブトムシを捕らえたまま。逃げ出したいと逃がすまいとする佳主馬が互いの感情を泣いてぶつけ合うしかない。
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ!離して佳主馬!」
少しでも距離を置こうと服が伸びるのもお構い無しに泣き叫びながら後ずさる。大好きなに全力で嫌がられショックを受けた佳主馬はしぶしぶ同じく泣き叫びながら頷き手放した、カブトムシを。
「――っ!」
虚しく佳主馬の手から落ちたカブトムシは退こうと踏ん張っていたの足の上に落ちた。サンダルの上、ほぼ素足に落ちてきたカブトムシにもはや声は出ない。佳主馬の手を無理やり払い、サンダルと一緒にカブトムシを投げ出し裸足で脱兎の如くは逃げた。
十年近くたった今でも佳主馬はあの時ほどが確固たる意志を持って走っている姿を見たことはないという。
2011/09/10