私の登校時間が早くなった理由

高校入学したてで張り切ってた私がいけないのではない、既に私の顔と名前をしっかり覚えている担任が悪い。登校時間まであと25分と余裕はたっぷりあったのだが、人通りが少ない職員室前の廊下を通ったのは教室への近道だから。そんな時たまたま会った担任が「」って呼んで、「あとで配る資料だから、これ持ってって」と40冊近くある冊子を私にどんと渡しやがった(お、重い)。「嫌です」と笑顔で答えられるほど、まだ担任とコミュニケーションとって無いから素直に(内心致し方なく)受け取る。かばんを右肩にしっかりかけて、重たい冊子たちを両手でがっちり抱え込むようにして階段を一生懸命上った(息も上がった)。でも非常に残念なことにどうやら一番乗りだったらしく教室の扉が閉まっている。別に鍵がかかっているわけではないのだが、一度この冊子を床において開けなおすというのは何とも面倒な行為だ。

(開けゴマ)

心で念じてみたものの、当然開くはずも無く、朝から溜息をついて幸せは逃げていった(返して、私の幸せ!)。やっぱりどうしようもなくて冊子を床に置こうと持ち直したとき、足音が近くで止まった。

「はよ、まさか鍵閉まってる?」

振り向けば背の高い野球坊主のたしか花井梓君(あずにゃんって呼びたい)とやらで、私とちょっと距離を置いたところで立ち止まってる。(救世主が来た!)(何で名前を覚えてるかって?最初女の子だと勘違いしてたらデカイ男子でショックだったからさ!)

「おはよう、えーと、鍵は開いているので扉を開けていただけると助かります」
「両手が塞がってて困ってたわけ」
「うん」

状況を理解したあずにゃんは扉を開けてくれた。開けたのになかなか教室に入らないあずにゃんを不思議に思って見上げたら、どうやら私が先に通るのを待ってくれているらしい(ちょ、ときめいたよ今)。

「ありがとう」

結局先に通させてもらったのでちゃんと会釈もしておく。続いて入ってきた気配を感じたと思ったら、すぐそばに来て、ヒョイって冊子をまとめているビニール紐をつかんで教卓に載せた。一瞬にして重みをなくした腕はちょっと浮いたような不思議な感覚。

「重かっただろ」

ちょっと突然の質問で、少し間をおいちゃったけど「うん」と頷いて、またお礼を言ったら「別に」って返された(本当に良い奴じゃん)。

「朝早いね」
「宿題持って帰んの忘れて、やるために来た。えーっとわりぃ、名前分かんないけど、お前は?」
「私は、中学の頃から早めに来る習慣だったから(嘘ついちゃった。張り切っちゃって、なんて言えない)、あ、名前はだよ」
「へー偉いな。俺は花井、まあ、よろしく」
「よろしく」

教室には私と花井(さっきは勝手にあずにゃんって心の中で呼んでごめんなさい)しか居なくて、会話が終わっちゃうととても静か。廊下から声がちらほらするけど、そんなのたいしたこと無くて気まずいかなって思ったけど花井はすぐに宿題を始めたらたぶん問題ない感じ。私も自分の席について、授業の準備をするけどほとんどすることが無くて手持ち無沙汰になってしまったから、仕方なく携帯をいじる(カチカチ)。自分でやってと気になる音なんだからもっと気になるに違いない。パチッと折り畳んだ携帯を鞄にしまう時、今度メアド教えてもらおうかな、なんてことを考える。

窓から外をみるといくつかの部活が朝練の片付けをしているけど、野球部はいなかった。

「花井って、野球部じゃなかった?」

彼は宿題をやってるなんて事をすっかり忘れてた私は思ったまま質問を口にしてしまい、すぐに後悔する。

「ごめん、邪魔した」

花井は「いいって」ってこっちを向いて小さく笑ってくれた。
そしてそのまま再び宿題に集中した花井の姿に私は感動した。

(真面目だなあ……)

2010/11/7