コクリコ坂(水沼)
どこまでも続きそうな、のぼり坂の先には空があった。
どこまでも続きそうな、くだり坂の先には海があった。
坂から真っ直ぐ望む景色には、海と空の境目があった。
水平線から汽笛が聞こえる。
それは海から吹き上げる風の様で、真っ直ぐ体当たりしてくる風の様で、空から降ってくる霧雨の様で。
目の前いっぱいに広がるこの世界が大好きだ。
えんぴつが机の上を転がる。カランと少し高めの音が、静かな教室に響いた。陽は傾き始めている。ふうと一息ついたはパタンと日誌を閉じて急ぎ帰り支度を始めた。
「それでは失礼します」
日誌を担任に手渡し今日の仕事は終わったとがほっとしたのは束の間、担任が声を掛けてきた。
「そうだ、悪いがカルチェラタンに帰り際寄って吉野に職員室へ来るよう伝えてくれないか」
「え、」
「まあなんだ、行き辛い気持ちは分かるが頼んだぞ、」
「女子一人であそこに行かせるなんてあんまりですよ先生」
そこへ、話を聞いていたらしい一人の男子生徒、この学校で知らない人は居ない水沼生徒会長が話に加わらんと、歩み寄ってきた。女子からの絶大な人気を誇る彼は、を庇う様に彼女のすぐ傍で立ち止まった。ミーハーではないでもそれだけで充分ドギマギ物である。なんと返事をすればよいのか、頭を必死に動かすも慣れない状態ではどうも空回り気味が否めない。
「カルチェラタンに行く用があるので自分が伝えます。吉野君とやらがどこに居るのか教えて下さい」
どうだろうか、と言わんばかりに自分へ視線を向けられは焦った。そのままお願いできればそれに越したことは無い。けれども忙しい生徒会長殿に増してや先輩に、自らの提案だからと気軽に乗ってよいものだろうか。
「せっかくだがこれはが行かなければ意味が無いんだ。な、?」
沸騰寸前の顔と頭で悩むを他所に担任が一蹴し、理解に苦しむ肯定を求めてきた。とっさにわけが分からないと怪訝そうに首を傾げたに水沼が頷いた。
「なんとなく察せましたが先生、人の気持ちを利用するとはお人が悪い」
「いやいや水沼ほどじゃないさ。まあいいか、吉野なら数学部にいるはずだ」
水沼がひょいと軽く肩を軽く竦めた。
「では、その吉野君とやらのところまでエスコートしましょう。むさ苦しい野郎共の中を一人で行くよりはましなはずです」
そう言って水沼はの肩を抱き、職員室の出口を目指し始めた。突然の行動に顔は赤面し肩を強張らすも、足を止めることは出来ない。後ろから担任の「を誑かすなよー」という声に、頭のとても近くで水沼が苦笑するのが分かった。
2013/01/12
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水沼連載にしようか悩んでやめたやつ、1話目。
出だしがバリバリ、長編使用ですがまあ、ここで終わっても、なんか日常夢としてありかなーと。
いつか続きを書こうと思う日が来たら、書こうかな。