Lambency

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適当な室温、湿度、そして静寂は睡魔を呼び寄せるか、思考のラットレースを開始させる。
今回、は後者であり、そしてゴールの無いレースはスタートがきられた。



21世紀にいるはずの母親に呼ばれた気がした。
当然、ここにいるはずも無くただ虚しく頭の中で木霊する。
いつからか響く声に父親、親友、24世紀に出会った上官、同期、幾度も戦ってきた敵、恋人、この世界での会ったことの無い筈の両親が入り込んでくる。
続けてテオ、クララ先輩、エヴァが呼びかけてくる声も脳内で再生されていく。
中には会える人もいるが、圧倒的に二度と聞け無い声の方が多かった。
彼らを失って空いた穴を他のもので埋めることが不可能であることは、大事な人を一度でも失った経験がある人なら誰もが無意識のうちにも感じているだろう。
だがいずれ、人はその穴を忘れたり、目の背け方を覚える。
空いた穴を無かったことには出来なくとも、いつかは蓋をして私たちはまたその上を通ることが出来るようになる。
人によってかかる時間はそれぞれ違えど。

心の痛みと思い出される、昔の日々――目の前で撃たれた大好きだった上官。
食事のタイミングが似ている人が、あるときから姿を見せなくなりそれに気がついた瞬間。
最初の配属先で世話になった先輩の殉職を噂で聞いた、亡くなったのは一ヶ月も前ことだった。
気がついたら仲間の大半はもう、居ない。

そう、死神はいつだって鎌首をもたげて待っているのだ。

立場が変われば――敵から見れば――私たちが死神でもある。
鎌の代わりに向けられた銃口に戦慄する人々。
しかし、私たちは、私は、どれだけの人を死の恐怖を越えた先に行かせたことか。
画面越しに僅かな間だけ映った敵の顔、断末魔の叫び、恐怖と苦痛と憎悪で満たされた瞳。

ははっとした。
同時に一気に身体中の力が抜けていくのが分かった。
嫌な汗がじんわりと額ににじんでいた。
ずっと目を見開いていたのだろ、瞳は乾いていて、何度か閉じたら涙が溢れてくる。
叫びだしたい衝動に駆られた、誰かの名前を呼んで今すぐ迎えに来て欲しいと思ったけれども、誰の名前を呼んだらよいのか、分からなかった。
ふわっとエヴァの優しい笑顔がよぎるものの、後に何も続かない。

今のは仕事が(基本的には)楽しくて、遣り甲斐があって、満たされている。
それは恐ろしくなるほど幸せなこと。
だからこそ、私の背後に何も無くても大丈夫だった。

』の友人は『』にとって思い出上の人であって、そこに深い感情は無い。
気がついてしまうと、こんなにも怖いものだとは思わなかった。


(私じゃない私の足跡に意味は無い)

一転


2010/11/11