Lambency

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「閣下のご様子は?」
「変わりない」

無機質な会話のあと、ミュラーは下がっていった。
の次の受取人――短時間の内に盥回しにされたためそう思わずにはいられなかった――は、オーベルシュタインであった。

「その、閣下のご様子はどの様な感じなのでしょうか」
「見れば分かる。他に何か」
「いえ、ありません」

彼はが承知したと見て、間を置かずにライハルトのもとへ連れて行った。
ガイエスブルクの大広間は暗かった。
実際のところ、視覚的にも光はだいぶ落されており暗かったのだが、それを際立たせていたのは他ならぬラインハルトであった。
日ごろ、光を纏う――否、まるで自ら光を放っている――様な人であったからこそ、光を失った彼は周囲の光すら飲み込む暗闇の中心にいるかのようであった。
見れば分かる、遅れてその言葉には心の中で頷いておく。

「閣下、隣の部屋にて曹長が控えておりますので、何かありましたらそちらへ」

オーベルシュタインはそれだけ告げると、に隣の控え室を視線で教え去っていった。
も同様に、無言のまま敬礼をし控え室へ入った。



広間の隣にある控えの部屋には待機している。
控えの部屋といえど、一人でいるには充分すぎるほどに広く、貴族たちの過去の栄光がそこかしこに伺えた。
広間に近いところを陣取ったの目の前には紅茶のポットとティーカップ。
他の仕事が回されるわけでもないため、ただ暇を持て余していた。
(待機ばかりの仕事って、日本人にとっては拷問に近いんじゃ……。エイルには遣らねばならない仕事はたくさんあったんだけどなあ)
どれほどの時間が経っただろうか、気になってこまめに時計を見れば見るほど、時間の進みが遅くより疲れる。
1時間おきにチラリと様子を伺い、異常が無いのを確認し、運ばれてくる食事の出し下げを行う以外はの裁量に任されていた。
食事をラインハルトに出すも全く手を付けず、だからといって強制も出来ない。
一度、持って行った紅茶を一口だけ飲んだだけである(これでも大きな進歩)
今はまだ良い。悲しみの闇に落ちてからさほど時間が経っておらず空腹も疲労も何も無いのだろう。
しかし、このままでは彼自身が気がつかないうちに衰弱し、いつしかはお陀仏にもなりかねない。
無意識のうちに吐き出されていた溜息(嗚呼、幸せが逃げていく)が大きく聞こえ、自ら驚くこともしばしばであった。
思いのほか自分に出来ることの少なさが、なにより一番辛かった。


(ついさっきの威勢はどこに消えていったやら)

一転


2010/11/11