通り雨

往 1

良く晴れた夏の日、子供達は青空の下全力で遊び心地よい疲れに満足する。日が傾きだした頃、帰宅を急かすように降りだす大粒の雨に今日最後の大騒ぎをして遊びを終える。雨は風を呼び、気温を下げ、寝るのに適した世界を作ってくれるだろう。

そして今日も青い空に白い雲がのびのびと泳いでいたが、吹きだした風は湿っており夕立を感じさせた。は雨が降っては厄介だと判断し、ちびーズと裏山で遊ぶのを止め退散することにした。見え始めてきた黒い大きな雲はまだ遠くに見えるだけで、家に帰るまで雨が降ることは無さそうだ。しかし裏の水場で手と足を一緒に洗っていると真緒が、あっと声を上げた。

「どうしたの?」
「帽子、山に忘れてきちゃったー」

被っていれば忘れないのに、邪魔になって取ってしまい木にかけたがそのままらしい。は唸った。おちびを連れずに一人で急ぎ行けばギリギリ雨が降り出す前に帰ってこられそうである。真緒のお気に入りの麦藁帽子が雨でダメになってしまうのは勿体無いし可哀想だ。仕方ない、心の中で独語したあとびっしとちびたちに指示を出す。

「じゃああんた達、次は風呂にでも入って身体洗ってきなさい。お姉ちゃんはちょっと裏山に行ってくる」
「ありがとー!」

最悪雨が降ってきても大丈夫なように、縁側に放置してあった薄手のパーカーを羽織、は早足で裏山に戻った。
あたりは時間に相応しくない明るさになってきており、雨が降り出すのは時間の問題だった。



オレンジ色のリボンがついた真緒お気に入りの麦藁帽子はすぐに見つかった。だが残念なことにの帰宅を待たず雨は降り出し、容赦なくに大粒の雫を叩きつける。着てきたパーカーに雨がしみこみ、身体へ張り付き重さは増していき熱を奪い鳥肌が一瞬立ち上がる。夕立が嫌いなわけではないが、ちょっと降り出すのが早すぎるとは溜息をついて空を見上げた。まるで自分へ吸い込まれるように降ってくる雨粒に思わず見惚れた瞬間、それは比喩ではなく実際の出来事となった。

すなわち雨が片目に飛び込んできたのだ。

は突然の痛み両目を瞑り幾度が瞬き、その後己の目を疑った。いつの間に現れたのであろう、手を伸ばせば届きそうな距離に赤いライダースジャッケトとそれを羽織っている背中。そして飛び込んでくる六文銭の図。思わず数歩後ずさった時、落ちていた小枝でも踏んだのであろうポキッと軽い音がした。

「ぬっ」

背中はくるりと反転し目の前の赤い人が目と口をこれでもかというほど開いた。ザアザアと雨が降る中、互いの存在に驚き見つめあった。



2012/12/22