私的まほろば
巡り会い 1
ココはとある高級住宅街。
右を見ても左を見ても立派なお宅が並んだ中でも、一際立派なお宅の目の前に今私は立っている。
塔矢
表札を今一度確認、身なりをチェックして一呼吸おいて私は門をくぐった。
塔矢行洋――
栄おばあちゃんの昔の教え子、何の教え子かは知らないけれど。碁でいくつものタイトルを持っていた凄い人だとは聞いたことはある。けれど先日、現役で引退するというニュースが飛び込んできて、それを心配したおばあちゃんから使者が放たれた。まあ、要するに私だ。
玄関のインターホンを押すとよくある呼び鈴が鳴る。不躾だとは分かっているが、気にならずにはいられない。田舎でもない場所で、門から玄関までの距離から見てもやっぱりかなり立派な邸宅である。(おばあちゃん家は田舎でもかなり立派だけど、あれはまあ桁違い過ぎる)この家の風格は何度かメディアを通じてみた塔矢名人に対する私が持つイメージと一致する。やはりその家の主人の雰囲気が出るのであろうか。
「はーい、どちら様でしょうか」
一拍おいて返事をしようとした私よりも早く、戸が開けられた。出てきた黒髪の青年とパッチリ視線が合ってしまい、互いに愛想笑いを浮かべるしかない。おかげで穏やかな空気になったところで私は姿勢を正す。
「こちらは塔矢行洋さんのお宅で合っていますでしょうか」
「え、あはい。塔矢先生の家ですが、先生に何か?」
失礼の無いよう身体中の神経を集中させる。おばあちゃんに習ったようにお辞儀をしてから、相手の首下あたりまで視線をあげる。
「陣内と申します。行洋さんはいらっしゃいますか」
「先生はおりますが、どういったご用件か伺っても?」
行洋さんという響きが面白かったのだろう、目の前の彼が一瞬笑いを堪えるのが分かった。けれどそれを面に出すことはなく、真面目な顔で対応してくれたのでほっと息を吐く。名人のファンだとかミーちゃんハーちゃんと一緒にされてしまっては困る。
「えっと、陣内栄の曾孫が来た、とお伝えしてくだされば通じると思います」
「陣内栄さんの曾孫さんがいらっしゃった、ね。ごめんね、ちょっとそこで待っててもらえるかな」
「はい」
ちょっとづつフランクになっていくのはご愛嬌ということにして、第一関門突破かな。陣内、まもなくラスボスみたいな人と対面です。
(芦原さん、どうされましたか)
(アキラ君、陣内さんって知ってる?)
2010/03/12