私的まほろば
巡り会い 2
間もなく私を迎えに来たのはラスボス本人でした――。
なんて、ラスボスに向かって言うほど馬鹿じゃないです。
「ようこそいらっしゃいました。陣内、」
「です。お初にお目にかかります」
「失礼、さん。どうぞ上がってください」
「お邪魔致します」
私のお澄ましも猫かぶりもここまで成長したものか、と自分で自分を褒めて鼓舞した。手の置き場、お辞儀の角度、身なり、今までこれほどに意識したことがあっただろうか、いや無い――と反語を使いたくなってしまいたくなるくらいだ。ただ、声と表情から察する限り、厳しい人ではあろうが、単なる怖い人では無さそうだ。威厳もありそうだが、何せわれら陣内家の人々は栄おばあちゃんに鍛えられてるんだからその辺は異様に強い。(世界で誰が一番怖いかって?それはもちろん、『栄おばあちゃん』って親戚中が答えるよ)
通された和室には足つきの碁盤が2面置かれ、片側では『検討』とやらをやっている様子であった。過去形になったのは、私が入ってきたことで一旦中止され、視線が私に集まってしまったから。検討していた一人と目が合った、先ほど出迎えてくれた彼が再びにっこりと人の良い笑みを浮かべてくれた。そうしていると行洋さん自身が一面をずらして私のために座を作ってくれる間は入り口すぐで正座しておく。その間に今度は息子さんだと思われる品のよさそうな可愛いおかっぱ少年がお茶を運んできた。(今の解説に趣味が出てるのは仕方無いの!)座が出来たところで進められたので、座布団の横で今度は正座して姿勢を整える。行洋さんが目の前に着いたところで、私はラスボスに挑んだ。
ゆっくり腕は半円を描くようにして三つ指をつき、腰まで筋が通るように伸ばしてお辞儀する。急ぎすぎないよう意識してから、相手を見つめる。とてもまっすぐで綺麗な瞳を持っている方だ、どこかおばあちゃんに似ている。
「改めまして、お初にお目にかかります、陣内栄の曾孫、陣内と申します。体調不良で自ら来られない栄に代わり名代としてうかがわせていただきました」
「こちらこそわざわざお越しいただき、感謝いたします」
「本来ならば前もって連絡を差し上げてから来るべきでしたが、上手く連絡が取れず、この様な突然の訪問となってしまい、申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ連絡が取れないのは私の責任です。気になされないでください」
「すごい……、」とサイドから感想が漏れてくるあたりで、私がまた失態をしていないことが分かりほっとする。しかし如何せん、視線が痛すぎる気もするが、それくらいで集中を散らしてしまうわけにもいかない。紙袋から取り出して不要となった袋は素早く折りたたむ、そして相手の正面になるように向けなおしてから両手で差し出す。
「ささやかなものですが、上田の銘菓です。どうぞお召し上がりください」
「お気遣い、ありがとうございます」
受け取ってくれたラスボスは、良い父親の様に優しく笑っていた。ああ、やっぱりこの人は栄おばあちゃんに似ている。
(緒方さん、あの人何者でしょうか)
(俺に聞くな、芦原)
2010/03/13