私的まほろば

巡り会い 6

「では先生、送ってきます」
「行洋さん、また」
「こちらこそ、今日は楽しかった」

その『楽しかった』部分を深く聞きたいが、これ以上傷つきたく無いのでやめておいた。さてさて、たいした距離では無いものの送るとわざわざ名乗りあげて下さった緒方さん。必要以上に断るのも失礼なので、お言葉に甘える羽目になってしまった。

「結構立派な猫を被っていたようだな、
「(呼び捨て?!)はあ、もう台無しですよ。あ、私タバコ嫌いなので吸わないで欲しいです」

胸ポケットからタバコの箱を取り出したのを見て、私はすかさず止めた。緒方さんは少しの間残念そうにタバコと見つめあったあと、大人しく仕舞ってくれたので良かった。結局この人も悪い人ではないのだろう。その証拠に、歩く早さを私にしっかり合わせてくれている。…単に、女性の扱いに慣れているだけなのかもしれないけれど。

「まあ未成年だからな、止めておいてやるよ。
しかし大人の社会なんてタバコだらけだ、慣れといたほうがいいぜ?」
「タバコは身体に悪いのでいつしか消えて無くなりますよ」
「ったく、いい子ちゃんぶっちゃって」
「根はいい子なんです、私」
「自分で言うなよ」

おーよしよし、からかいながら頭を撫でてきた緒方さんの手を剥がそうとするが、身長差で敵わない。完璧に子供扱いされているのが不服以外の何者でもないが、ここでムキになっても子供扱いされそうで悔しい。(これはさっきの仕返しか?!)

「ただ根は良くても、葉っぱがちょっと捻くれ者で素直なチキンなんです」

訳が分からんって顔に書いてあるのを初めて見た気がしてぷっと噴いたら、頭を撫でいた手の動きが、さっきまでわしゃわしゃだったのに急にガシガシに変わって少し痛い。今、ちょこっと反省しました。やっぱり大人をからかうもんじゃない。

「右向けって言われたら左向いちゃうけどやっぱり怖いから右を向きなおしちゃうんですよ」
「単なる馬鹿なガキだな」
「自覚してます」
「おっ、偉いじゃないか」

うわっ、という顔をしたら奴の顔はより一層愉しそうに輝いた。(なんて奴だ)あーだこーだ言い争っているうちに、交差点に着いた。時間的には来ていても良い頃と緒方さんの手を頭に載せたままキョロキョロしたとき、あの素敵ボイスが私の名前を呼んだ。

!」

その瞬間、頭の上に乗っていた異物が無くなって軽くなった。停止線から数m下がったところに、理一さんと愛車であるサイドカー付きのバイク。夕日をバックにレザージャケットを着てヘルメットを持っているシルエットはもう、鼻血ものだ。緒方さんも確かに女性にモテるタイプかもしれないが、彼自身もほんの僅かだけど私の王子様に見惚れたような気がした。(王子様に勝てると思うなよ!)いつの間にかさっきまで頭の上にあった手が腰に回されていた。外したいのはやまやまだが、しっかり固定されていて取れないまま、理一さんのところまで着いてしまった。

「あーえーと、王子様であり叔父様である理一おじさんです」
がずいぶんと、お世話になったようで……なんだお前、とちったのか」

笑いながら手袋をつけたまま私の頭を今度は理一おじさんが撫でる。昨日の夜、「私、明日完璧な猫をかぶって見せるよ!」なんて電話で宣言したのがいけなかった。
(自分でフラグ立ててたのか…)

「私は塔矢行洋の弟子の緒方です。塔矢先生もなかなか愉しい時間を過ごせたとご機嫌でしたよ。なっ?」

お前が猫かぶりだろ!と怒鳴りたいが、言えばこのネタに関しては奴に敵わないのが目に見えているのでぐっと堪える。ははっ、乾いた笑みしか浮かべない私から何か察したのであろう理一おじさんは普段よりも優しく笑ってくれたように見えた。

「んじゃ、暗くなって冷えるのも早いしな、帰ろうか。、これを着ろ」

私に、用意していたレザージャケットを渡してから、緒方さんに向き直る。さすがに空気を読んでか、するっと自然に腕から解放された。

「行洋先生にも宜しくお伝えください。それに、わざわざコイツをココまで送ってくれてありがとうございました」

そのまま緒方さんはしっかり見送ってくれた。どことなく理一おじさんの方が何かと一枚上手な雰囲気があって、私はちょっと勝った気分だ。けれど、パッと見いちゃこいてる年の差カップルに見えたと、帰り途中理一さんに言われたことはショックで仕方ない。

(まあ、中高生とお遊びな大人がいちゃついてた感じだったな)(そ、そんな……!)

2010/03/24