09

彼の用件は至って、単純であった。
元帥はいつ検診の時間が取れるか今のところ全く予定が立たないので、昼の時間などにでも検診が出来ないだろうか――。
または時間を指定してもらったほうが助かる、とのことだった。
もちろん、両方とも可能である。
元帥が「夜中に行いたい」といえば、彼女たちは従うほか無い。
目の前の彼と、我らが元帥、2人の上官には小さく感嘆をもらす。
の答えは当然二つ返事であった。

「いつの昼前であるか、前もって教えていただければすべての検診を一度で終わらせることも可能ですが?」

キルヒアイスは小さく悩むように首をかしげた。
幼友達である元帥のしばらくの予定を思い出しているのだろう。

「ちょっと、今はわかりません」
「わかりましたらご一報くだされば。
全てが一度で出来なくても良いのでしたら、連絡なしでも、いつでもいらして下さい。
出来なかった部分は後日の昼、またはこちらから時間指定するでも、都合の良いほうにして下されば」
「助かります」

元帥の威を借りることない彼は、遥かに階級が下のにも丁寧である。
はそんな上官の役に立ちたくなっていた。
ふと思いついたことを、僅かな間で可能か判断してから口を開いた。

「それに、あと数日もすれば人の波も予想できるようになります。
人が少ない時間帯も把握できますし、その時間帯に来ていただければスムーズに行えます。
その情報をお渡ししますから、それに合わせて時間を作っていただけたら。
……選択の幅は広いほうが、良いですしね」

年下の上司が三度目の礼を伝えようと口を開きかけたが、それを察してはあえて続けた。

「これが私たちの仕事ですし、閣下方のお役に立てるのならば喜んで、ですよ」
「そうですか、ならば私たちは一層我々を支えてくれる人々を顧みないといけませんね」

穏やかな元帥の友人の笑顔は彼の見事な赤髪に負けないくらい美しい。
彼は無意識のうちに、一体どれほど多くの女性を虜にしてきたのだろうか。
には分からないが、少なくとも一度彼が国立の病院に姿を現せば、
大学の同期たちの大半が故意に落ちるのは確実である事は分かった。
けれど彼女は彼でも念を押す事は忘れない、彼が忘れる事はまず無いと思われたが。

「閣下も忘れずに、検診受けてくださいませ」

去り際も美しかった彼に、思わず溜息が出てしまう事は致し方ないことのように思えた。

(ビッテンフェルト提督の時の溜息とは豪い違いだ)