10
翌日、各々が適当に仕事を切り上げ、昼食に移り始める時間であった。
今日の診療所居残り当番であったも、机上を片付け、自作のお弁当を広げる準備をしていた。
Ding Ding ――
いくつかの種類がある呼び鈴の中で、来訪者を知らせるものが2回なる。
もしや、と思ったは視線を上げてすぐに見つかった赤髪に確信した。
席を立ち、敬礼をしてから2人の上官にベンチを勧める。
「検診で、よろしいでしょうか」
「ああお願いする。
貴官の大事な昼の時間を奪ってすまないな」
「いえいえ、この程度でお役に立てるならばいくらでも。
もちろん、この程度であれば、ですが」
ラインハルトは笑みを僅かにこぼす。
は確認に必要な書類を、いつ来ても大丈夫なように前もって用意しておいたファイルから取り出し、2人に手渡す。
逡巡を見せたキルヒアイスにラインハルトは、
「お前も一緒に受けろということだろう」
と話しながら、キルヒアイスからへ移された視線は答えを求める。
「はい」
穏やかに肯定する表面とは異なり、の身体の中には夏の草原の風が通り抜ける様な感覚を覚えていた。
(なんて綺麗な瞳なのだろうか――)
彼のアイスブルーは冬の青空よりも鋭く突き抜けるようで、さんご礁の穏やかな海よりも滑らかに感じられた。
人の瞳とはこうも大自然を凝縮させたものだったろうか、彼女は考え込みそうになるのをぐっと堪える。
瞬き一つとっても、まるで掛け替えの無い大切な宝物に思えた。
たかが仕草一つ、されど仕草一つ、こんなにも画になる人を彼女は知らなかった。
否、知ってはいたのだ。
だが今はじめて、彼女は「画」ではなく、画にされる本物を見たのである。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
キルヒアイスの言葉でようやくは我に返れた。
苦笑しながら自身の書類に軽く視線を落とした彼にラインハルトは満足げに頷いた。
「ああ、そうするといい」
「はい」
赤髪と金髪の2人が見るもの全ての人たちに――最も、診療所にはしか居ない、
自分たちの障害に成らないだからこそ2人が僅かであっても気を抜いたのかもしれない――
仲の良いことを見せ付ける様に笑みを浮かべながら視線を合わす。
もあえて口に出さないよう勤めて、血圧計、注射器など一式を準備した。
眩しい2人になれ始めたころ、腹の虫の方が気になり始めていた。
(頼むから大人しくしててね、我が腹の友よ!)