14
「しかし、驚いたな、存外世間とは狭いものらしい」
フォークで一口大の大きさにしたアップルパイを頬張れば、「美味い」と素直に出来を褒めた。
味見という任務を果たした彼に続いて、2人のパティシエも頬張る。
「美味しいです、エヴァ師匠!」
「師匠だなんて、まあ。あなたと作ったから美味しいのよ」
「これはやはり師匠の隠し味、愛がきいているのではないでしょうか」
「ふふふ、否定はしませんわ」
居心地の悪さがミッターマイヤーの表情に出ていた。
愛妻の作ったアップルパイは美味しかったのは確かであろう。
しかし、女性だけで話が盛り上がられるとどうしたら良いのか困ってしまうのが男性である。
ましてや、自身の家であるのだ。
やはり出掛ければよかったと後悔し、今からでも、と脳裏に浮かび上がったころ、
良識ある2人の女性は自分たちの世界から帰ってきた。
「私もまさか、がウォルフの話していた『頑張り屋の看護婦』さんだと気づかなかったわ」
「提督が私のことをなんとお話したのかすごく気になりますが、聞く勇気はありません。
が、やっぱり少し気になります」
心の葛藤を素直に吐露したルナに、苦笑しながらミッターマイヤーも己の思考から帰ってくる。
妻が自分を忘れていなかったことが嬉しかったのだろう、会話へ自然と入り込む。
「なに、大したことは、と言っては失礼だな。
ただ、従軍看護婦ではなく、女性衛生兵として一人やって来たと、話しただけさ」
「ええ、そして諸提督方とも張り合える素晴らしい方と、ね、ウォルフ」
「あっいや、そう!ビッテンフェルトが貴官を褒めていてな」
「はあ、あまりその中身は聞きたくありませんので、ミッターマイヤー提督、何もおっしゃらないで下さいませ。
私のためにも、提督のためにも、立場がありますし」
ミッターマイヤーは深く2度頷く。
エヴァは楽しそうに笑みを浮かべた。
そんな二人をは羨望の眼差しで見た。
夫婦の形には様々な物があるのは、彼女も知っている。
自身の両親は恋人ではなく、家族という関係であった様に見えていたが、その姿は憧れであり、理想でもある。
恋人のまま親にもなる夫妻を度々目にした事はあったが、その前の段階を初めて見たのだ。
彼らはいつまでも恋人同士でいられる、なぜかそれをは確かなものに感じた。
いつか自分も結婚する時が来るかもしれない、
ならば、こういう形であり続けられる人と共に成るのも悪くないかもしれない、
と柄でもない事を考え薄い笑みを浮かべた。
「ごちそうさまでした。エヴァ、今日もありがとう。
提督、お邪魔致しました。暗くなる前に帰りますね、また」
「ええ、、また連絡ちょうだいね」
失礼にならない程度に手短な挨拶を重ね、辞する。
後にこの夫妻とは長年の付き合いとなる。
またミッターマイヤーこそが、の人生に欠かせない重要人物となるのである。
(「結婚は人生の墓場」の本当の姿だわ)