16
「どちらですか」と無言でなおも問い続けるにキルヒアイスは少し困ったように微笑みながら答えた。
「そうですね。両方とも好きですが、どちらかといえばグレープの方が好きです」
そう言って照れた彼には頷いて、ウエストポーチから二つのキャンディを取り出す。
「手を出して下さいませ」
出された右手にそのキャンディ、グレープとオレンジは乗せられた。
グレープと答えたはずなのに、両方とも乗っている事を不思議に思ったのだろう、
キルヒアイスは目を瞬き疑問を表す。
「グレープは、キルヒアイス提督の分。
オレンジは元帥閣下、もしくはキルヒアイス提督の分です」
彼女はウエストポーチを閉じてから、未だ疑問符を浮かべる年下の提督に続けた。
「オレンジも提督が食べたかったら食べてくださいませ。
でももし、元帥閣下にも分けようと思われたならば、元帥閣下に差し上げるのはオレンジですよ」
いいですか、と念を押す。
ゆっくりとキルヒアイスは微笑んでから、手元のキャンディに視線をやる。
「ありがとうございます。ですが、なぜオレンジではなければいけないのでしょうか」
はニッと破顔した。
(あっなんかこんな風に笑うの久しぶり……)
「キルヒアイス提督はきっと、選択肢がある場合は元帥閣下に先に選択してもらうでしょう。
ですが私はキルヒアイス提督に差し上げたいんです、元帥閣下はおまけです。
なので、提督には先に選んでいただかないといけませんから」
キルヒアイスはあまりにも予想外な回答に目を見開く。
そんな彼には満足した。
いつだって彼は元帥の一歩後ろを歩いてきたことだろう。
公私を的確に見極め、時には掛け替えの無いただの友人として、時には部下として副官として。
ならば彼は選択をいつも前を、上を行く元帥に先を譲っていたことだろう。
もう一度礼をキルヒアイスに伝えてから、は診療所へと足を向けた。
「ラインハルト様、これを」
キルヒアイスはラインハルトが元帥府の執務室で一人でいる時に、声をかけ、先ほど貰ったものを差し出した。
キャンディを受け取ったラインハルトは少し可笑しそうに、キルヒアイスと愛する姉にしか向けない笑みを浮かべた。
「どうした、お前がキャンディを持っているなんて珍しいじゃないか」
「今日、軍曹から貰ったのです、ラインハルト様にもと」
「俺とお前に、キャンディをか。相変わらず変わった女性だな」
ラインハルトのすらりと長く綺麗な二本の指でキャンディをはさみ、さまざまな角度にしながら、面白そうに笑う。
キルヒアイスも、同意するように笑った。
この時、キルヒアイスはもう一つのキャンディがグレープ味であることをラインハルトに告げなかった。