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「なんだ貴様、あぶれたのか」
突然後ろからかけられた声に、慌てては振り向いた。
「待っていられなかったんですか?」と思わず聞いてしまいそうになるのだけはなんとか回避した。
素直に驚いたのだが、あぶれた、という表現になぜか親近感を覚えた。
けれど同時に、あぶれた、と表されるには語弊があるように感じられたため
――先ほどの玄関での完全な負けもあってか――食いついた。
「あぶれたとは、少し酷いのではありませんか」
ほお、とロイエンタールが小さく反応を返したのをは確かに確認した。
「ならば提督、私の代わりに割って入って下さいませんか」
「なぜ俺が貴様なんぞのために、あれの中に割って入られねばならない」
「提督、あの二人からあぶれてしまうのは、もはや自然の摂理です」
ロイエンタールが嘲笑を浮かべた。
「なるほど、貴様は淘汰されたのか」
「もっと酷い言われようになっていませんか?」
が非難の視線を送れば、必然的にも高い位置にある金銀妖瞳が見下した。
「そんな事もろくに判断出来んのか」
「……、」
「詰まらん、だんまりか」
セツナは本日二度目の敗北をした。
もはや戦意は無くなってしまった――そもそも、
勝ち目が無いのは傍目からでも明らかであった――のか、肩を落とし、溜息をついた。
「諸悪の根源であるコーヒーが悪いんです」
「貴様はコーヒーも飲めんのか。
そして血迷った結果、落ち着いた先がコーヒーのせいとは、甚だ呆れるな」
「確かにコーヒーが飲めないのは格好悪いですが、人間好き嫌いはあって当然です。
きっと同盟軍の中にも紅茶党はいる筈です」
「すると、コーヒーもまともに飲めん奴らにイゼルローンを取られたというのか」
ロイエンタールがはんっと、鼻で笑う。
いまさらも気にしない。
「未だ奥方様を言いくるめられなくて、いや、
あれはイチャイチャを楽しんでるあの方だって、帝国軍の中将閣下ですよ」
にはロイエンタールが腕を組み、蔑む視線をミッターマイヤー夫妻に送っているように見えた。
ふとの中にとある小説の一文が浮かび上がった。
(――恋の満足を味わっている人はもっと暖かい声を出すものです)
ロイエンタールの女性関係については、帝国軍内では有名な話しである。
しかし必ず付き合う時は一人で、決して二股はしないため、女性に恨まれる事はあまり無いという。
(どちらかといえば、女性をとられた男性からは恨まれているらしい)
どこまでが真実なのかは知らないが、噂を聞く限りどれも真実に近いものだと思われた。
「提督は、もしかして、女性がお嫌いですか」
は内心、また余分なことを!と後悔したが、必死に面に表れないよう努めた。
僅かに殺気立ったロイエンタールの金銀妖瞳に面白がる様な光が灯った事を、
冷汗いっぱいの心に気をとられていたは気付けなかった。
(人はそれを「それどころじゃなかった」と言う)
休日U
09/08/08
とある小説の一文とは、『こころ』(著・夏目漱石)より
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