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料理の名人――と、ミッターマイヤーは自身の妻を称す――
エヴァとお手伝いによる夕食は、四人に無事美味しく食された。
にとって品よく食べ纏う空気が違うロイエンタールの隣ということ以外、文句無しであった。
再び女性男性に別れて一服もつき終わった頃、が腰をあげた。
「エヴァ、私そろそろ帰るね」
「そうね、これ以上遅くなるのも良くないわ」
「今日も美味しかったし、まあ楽しかったわ。ご馳走様でした」
二人は談笑しながら、近い未来に帝国の“双璧”と呼ばれる名将のもとへ行く。
そこでもお開きが近かったのだろう、ワイングラスとボトルは器としての役目を終えていた。
「ミッターマイヤー提督、ロイエンタール提督、私は先に帰らせていただきます。
お邪魔致しました。ぜひ、またご一緒させてください」
半分は素直な気持ちで、残りの半分は営業に近い笑みを浮かべた。
「そうか。すまないな、今日は普段より遅くなってしまったな」
ロイエンタールが綺麗な仕草で席を立った。
「なら、俺も帰るとしよう」
この発言に一番反応したのはであった。
ビクリと肩が一瞬飛び上がったのを横に立っていたエヴァは見逃さなかった。
「そうだな、を頼んだ」
無言でロイエンタールがミッタマイヤーに視線を送るが、彼は笑って受け流した。
この家の夫妻に玄関まで見送られて、ロイエンタールとは家を後にした。
敷地を数歩分出た頃、は意を決して一歩前を行く背の高い提督に声をかけた。
「ロイエンタール提督」
「なんだ」
「あの、私歩いて帰るので、ここで」
ロイエンタールが立ち止まり振り替える、明らかに人を馬鹿に知た表情をしていた。
「貴様は本当の馬鹿か。こんな暗い時間帯に女が一人で歩いたらどうなるのか分かっていないのか」
「……そんな遠くないですし」
「襲われたいのか」
「んな分けないです!」
これ見よがしに溜息をつきながら、の片腕をしっかり掴んだ。
地上車を捕まえ、助手席側の扉を開けて乗るよう促す。
ロイエンタールはきょとんとするの腕を放して自主的に乗り込むのを待った。
さすがにこれ以上拒むことも出来なかったであろうが席に着いたのを確認して丁寧に扉を閉め、
自身も車の反対側に回り乗り込んだ。
「女子寮でいいんだな」
「あ、はい……」
は横目で見られたことにどきりとしたが、諦めて肩の力を抜いた。
「何か言いたいならはっきりと言え。乗車拒否以外の言葉ならな」
「……なら違うのではっきり言わせて頂きます」
ロイエンタールはわざとらしく関心を表した振りをした。
「ちょっと嬉しかったです。ちょっと見直しました」
「貴様なんぞに見直されてもな。この程度で喜ぶとは、ろくな男に恵まれない甚だ悲しい奴が」
「否定はしませんが、なんか悔しいなあ……」
しっくり来ないと、が首を傾げる。
一旦途切れた会話はしばらくの間再開する様子も見せず、僅かに聞こえるエンジン音だけが車内に響いた。
(開き直りは人生最強の武器になる)