24
帰ってきた星は暗く重たい空気に満たされていた。
皇帝が崩御していたのである。
忠誠心の度合いに関わらず、皆一様に喪に服していた。
思想の自由と平和に恵まれた国に生まれ育ち、自由の国で軍人となり、
気がついたら衛生兵になっていた国で初めて盲目的な皇帝崇拝を目の当たりにした。
だが、我らが元帥は表向きは服喪しつつも、着実に地盤固めを行っていた。
最近新しく元帥府に来たというミュラー提督一行の健康管理カードがの手元にあった。
配属が変わった場合、毎回本人の確認の署名が必要であるため、封筒にまとめて容れ、執務室に向かった。
こういった場合、基本的には副官に渡す。
その為に今、はミュラー提督の執務室前に立ち、扉に2回叩いて返事を待つ。
一般的に再び叩いても失礼にならないであろう程度の時間をあけてから、気持ち強めにノックし直した。
やはり返事は無かった。
勝手に扉を開け、中の様子を窺う事も出来ないのでの出直しは決まった。
がふーっと肩の力を抜き、診療所へ踵を返そうとした時、通り過ぎると思われた足音は近くで姿を消した。
「どうかしたのか」
突然の声への驚きと勘が騒ぎ、は封筒を手から滑り落とし
――拾おうと一瞬屈みかけてから慌てて止めて――身体事振り向いた。
の瞳に飛び込んで来たのは、将兵の制服、
咄嗟に視線を移せば中将を表す装飾、そして長身で砂色の髪と瞳の穏やかな雰囲気の青年。
見慣れない佇まいの彼がミュラー提督であろうことはにも察せられた。
の思考が追い付く前に、彼はさっと腰を折って、落とされた封筒を拾い、苦笑を浮かべながら差し出した。
「落としたぞ」
「あっありがとうございます。……ミュラー提督でいらっしゃいますか」
「ああ」
「申し訳ありません!大変失礼致しました」
慌てるに肩を竦めて少し困った様にミュラーが笑う。
「あ、衛生兵の・軍曹です。本当に、大変失礼致しました。
その、書類をお持ちしましたので、確認とサインをお願いします」
受け取ったばかりの封筒の正面を相手に向け直してから、丁寧差し出す。
「ありがとう。席を外していて悪かった」
受け取ったミュラーは微笑んだ。
を立っているのか分からなくなるような、柔らかい衝撃が全身を包んだ。
――恋に落ちる音がした。
衝撃によってもたらされた落ちたものは胸を強く打たせ指の先まで確かに波紋を広げた。
(その時私は確かに聞いた)