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医薬品調達及び管理、人員調整、講習会、それらは着実に準備され随時行われていった。
後に、この国の有様を変える最初の出来事であり、
数カ月に及ぶリップシュタット戦役と呼ばれるものが今にも始まろうとしていた。
現在が知っている事は、貴族連合が旗揚げをした事によって、
帝国で武力的な内乱が起きそうになっている事だけである。
このラインハルト率いる元帥府にいる限り貴族連合側に入る事はまず無い。
ましてや元々平民である家が連合に加わる理由だけでなく、
連合側の貴族に好感や同情を抱く事も無かったため自然な流れであった。

ふと、は大量に積まれた医薬品の詰まった箱と中身の確認作業を止め、携帯端末から視線を外した。
彼女もあと数日もすれば曹長へと昇進するのは、一年前元帥府に配属された時から決まっていた事だ。
単語に違和感を感じずにいられなくなり触れてみた。
今からちょうど『一年前』――、
彼女はユニオンのアメリカ空軍のパイロットとして軍人であったのが、現在は帝国軍の衛生兵である。
大好きな仲間に囲まれ、戦場にあっても幸せで、無我夢中になって空と戯れていた。
ただほんの数回の戦闘で多くの仲間が一瞬にして散って逝った。
しばらくして、隊が再編成されるかと思えばちょっと前までは
互いに牽制しあっていた三大勢力が手を取り合い合同軍を作り、それに組されてしまった。
そこで新たに得た仲間たちも最終作戦で多くが帰らなかった。
敵を壊滅させたのだから勝ちと言えない事も無い結果。
けれどその為に流した血と涙は余りにも多く、
戦いに関わった者たちの殆どが悲しみの中の住人にならざるえなかった。
艦に帰って来た自分はどうしたのだろうか、
曖昧な記憶は心身共に憔悴した状態でベッドに倒れ込んだところで途切れている。

最初は感じた違和感も次第に無くなり、気が付けば馴染んでいたこの世界がに後悔を忘れさせていた。
「『護りたい』思いも能力もあったのに、無力だった」
「何故あの時、素直に言えなかった」
目の前で消え逝く命達を前に、戦いながら涙した日々。
手が届く位置にありながら伸ばせ無かったあの時、自分の死がすぐ傍を通り過ぎて足がすくんだのだ。

気が付けば涙が溢れ出し、倉庫では座り込んでいた。
足が震えて暫く立ち上がる事が出来なさそうな程、身体に力が無い。

「なんで、忘れていたの」

――大切な人々の死を、後悔を。
嘆きは音となり倉庫を満たすが箱が吸い込み、力をより削いだ。
響かぬ鳴咽が次第に独り整い始める。

「もう、忘れない。同じ後悔を二度は要らない」

後悔は反省を誘い、反省は誓いを導いた。
音に力は無くとも、明瞭であった。

記憶

09/08/17
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