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宇宙では朝になれば日が昇るわけでもなく、あくまでも時間は時間であり目安に過ぎない。
眠りも身体の休息であれば1時間で8時間分をとることが出来るタンク・ベッドがある。
「一日23時間連続勤務も夢じゃない……、なんてやってられないよ」
独語したところで何も変わらないと分かっているは心の内に閉まっておいた。
どうもには効率悪いシステムに思えたが、
だからといって何かが出来るわけでも無いので淡々と目の前の仕事を片付けていた。
そして帝国軍最大の病院船エイルの病床も長引く戦いで埋まり始めてきていた。
ただし必ずしも寝ているのがラインハルト軍の者とは限らなかった。
確実に勝利を収めて行ったラインハルト軍の通った所には、味方に見捨てられた艦が残っていた。
生存する者がいるならば助けるが、中には屈辱のあまり自害するのもいた。
しかし、乗組員皆がそうであったわけでもなく平民出身のものたちは降伏していった。
宇宙に出て裕に3ヶ月が経過した。
エイルはずっとブリュンヒルトとの後ろについているため、度々伝令としてはあの美しい艦に乗る機会を得ていた。
それすら、従軍看護婦には無い衛生兵の特権であり、
ましてやなぜか名前までラインハルトに覚えられているにはより仕事が回された。
ある時、がブリュンヒルトと艦橋からの眺めを絶賛したところ、
気分がよかったラインハルトはあたりの照明を落とさせ本当の満天の宇宙を見せてくれた事もあった。
また3ヶ月もすれば怪我で一時期エイルに滞在しオーディンに返された人間が復帰して、
輸送艦に乗ってエイルへ物資を届けに来る者まで現れだした。
とある若い一等兵は去り際にから貰った3粒のキャンディに感動したとかで、
エイルによかったついでと言って、オーディンの有名菓子店の高級キャンディをお礼にくれた。
「俺、家に帰るのが怖かったんです。
キャンディをなめた時、母さんなら俺を責めずに迎えてくれるって、なんか確信出来たんです」
そんな彼には、「贈り物に倍倍倍返しとはいい心掛けだわ」と笑って返したが、
まさか自分が軽い気持ちであげたキャンディが意味を持ったとは信じられないものの、
あげてよかったと救われた気分になった。
まだまだ続くと思われる戦いの中、人々は体力以上に精神を疲弊させていった。
助けられた者はいい、二度と母星に生きて帰れなくなった者達を送るのは辛いのに、
それにすら慣れ始めた己に嫌悪した者は少なく無い。
そんな中での彼の一言は、彼女にとって乾燥した大地に降り注ぐ柔らかい雨だった。