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8月15日――ミッターマイヤーの先制攻撃から始まった戦いは見事に相手を引っ掛け、
控えていた諸提督たちも加わり、統制の取れた圧倒的な攻撃が貴族軍側になされた。
次の輸送艦に載せる遺体の名簿の確認作業を行いながら、それを遠巻きにエイルのモニターからは見ていた。
一瞬で火の玉となり水の無い海の藻屑となって艦はその空間から消え去った。
遺体すら残らない彼らよりも、遺体であっても母星に還れるほうがまだ幸せなのかもしれない。
自身もよく分からない基準による感想に自嘲がこぼれるのが分かった。
意識を目の前の端末に戻し、今度は溜息を零した。
従軍医・看護婦はよく働いている、働いていないのは病院船におけるシステムの方であった。
縦割りが顕著で、同じ船の中で無駄な動きが多い。
まず一番の問題が物資の不足を訴えても届くまでに時間がかかる事。
次にトリアージが徹底されていないため重症患者の治療が遅れたり、余裕のなる他のグループに治療を頼むなどが行われていないのだ。

<<味方先頭の艦隊、被害甚大――>>

人の命とは一体何なんだろうか。
助けれた命がすぐ隣にあるにも関わらず、手を出せない医療の道を志す存在に意味があるのだろうか。
は自問しかけてやめた。
(今動かすべきなのは、頭じゃなくて、手だ)
問題点は多々あるものの、改善されること無く、始まった戦闘のために少し落ち着きを取り戻しかけた船内もまた戦場となるのは間もなくであった。





数日後、一つの映像が帝国中の人々に衝撃を与えた。
ヴェスターラントの惨劇、文字にすれば淡白だが内容はそうもいかなかった。
無差別――否、権力を有するものによる社会的弱者を狙った一方的な虐殺がそこにあった。

「人の命は、ボタン一つで簡単に殺せる」

いつの時代も力のある者にとってはそうなのだ。
生殺与奪、それは生かしたり殺したり、与えたり奪ったりすること、広義的には他人を思いのままにすること。
目の前にあるちっぽけで無力で、無価値な命など鬱陶しいだけなのだ。
それはたぶん、部屋を飛び回る蚊を人間が簡単に殺すのと同じようなものだとは思う。
だが、力の無い者にとってはどうだろうか。
蚊は子孫を残すためだけに、身を危険に晒しながら健気に生きている。
もし蚊の立場を良く理解出来たら、殺すことはしないだろう、しかし所詮人間にとって蚊は蚊なのだ、理解する必要も無い存在。
貴族からしてみれば、気まぐれで飼っていた蚊に血を吸われたから一気に殺虫剤を撒いて処分したのと同じレベルなのかもしれない。

「なんか、私乾いてるなあ」

ユニオン時代、一時避難民が勝手に逃げ出さないように監視する仕事をしたことがあった。
逃げ出した奴は面倒だから遠慮なく殺せ、命令の内容は簡単だった。
あの時、はどんな気持ちでその仕事と向き合ったのかおぼろげにしか覚えていない。
必死すぎたのか、忘れたかったのか。

貴族の考えがなんとなくでも理解出来た気がした己をは切なく感じた。

(あの頃の自分、か……)
才覚

09/08/30

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