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ガイエスブルク要塞は半ば自壊にも近い形で陥落した。
ラインハルト軍による総攻撃と貴族側についていた兵たちによる貴族たちへの反乱が勝敗をつけた。
いつでも前線より遅れて戦いが始まるのは病院船の特徴である。
そして今回は今までの戦闘の中で一番辛く長いものになった。
なぜなら一度に多くの貴族連合軍の兵たちが降伏してきたためである。
怪我している者も少なくなく、一斉にどの船でも処理能力の限界への挑戦が始まっていた。
そこで今まで仕方なく無視してきたシステムの悪さが、本気を表した。
優先すべき患者をなかなか治療できない、物資が届かない、
効率の悪い診方をしているために患者の回転が悪い、遺体の収容スペースが満杯になる。
脱脂綿、太い幅の包帯その他諸々必要物資が底を尽きかけて急ぎで要請を出しているのにもかかわらず、承認順としてなかなか配給されない。
また他のグループの収容スペースに余裕があるのだから容れさせてもらおうと思って、担当の部署に嘆願しても即却下された。
「!包帯の追加まだかしら、いい加減持たないわよ」
は患者の点滴パックを代え通路を出たところできゅっと腕をつかまれ、クララがそっと顔を近づけて小声で言った。
患者を不安にさせないために、も声のトーンを抑えて返す。
「何度もお願いしてんのに、だめなんです。
あーもう力ずくで手に入れてきちゃいますか?」
「やっちゃいなさい、。アナタの仕事よ、頑張って」
「えっ、ちょクララ先輩、頑張ってって……」
パシッと背中を叩いてクララは持ち場に戻っていった。
髪だけを乱していく突風の様に現れて颯爽と去っていったにも関わらず、
彼女はに大事な課題を残して行った。
「やっちゃいなさいって……うーん」
そしては今、ある意味『やっちゃって』いた。
医療全般における責任者であるデーゼナー大佐の元に、直談判しに来ていた。
(ええ、ええ、それはもう色んなものをまるっと無視しちゃったから後が怖いわ)
背筋を伸ばし、顎を引いて一度深呼吸し、準備は整った。
「失礼します。ブレッヒ少佐班の曹長です。
大佐!現場に医療物資が不足しています。
私たちや従軍看護婦だけでなく、患者たちだって不安になってしまいます。
そして物資関係だけでなく、患者の移送や遺体についても、今からでも改善するべき事はたくさんあります。
旗艦であるエイルが全力を発揮出来なくてどうするのでしょうか」
入ってきていきなりまくし立てたに、
穏やかそうな初老の軍医が驚きの表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。
「物資は、足りているのでは無いか?」
「倉庫の数字だけを見れば足りています。しかし現場に出回っている数とは違います」
「すると、事務部の怠慢であると言いたいのか」
「いいえ、事務部はちゃんと仕事しています。ただマニュアルに忠実過ぎて、現場の『必要』に追いつけていないんです」
ふむ、と は頷いた。
どうやらに続けろという事らしい。
(唾を飲み込む音が大きく聞こえた)