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「大佐。皆の休息はどんなに忙しくても決められた時間内は絶対に取らせるようにして下さい」

付け足すように、
「じゃないと皆真面目だから働いちゃいます」そう言っては管制室に再び吸い込まれていった。

「まずはガイエスブルク要塞周辺にいる輸送船団がどれほどいるか確認作業をお願いします」
「全ての病院船に連絡して負傷者の数を把握、重傷者ばかりになった船は已むを得ないので下がらせて下さい。
無傷で余裕のある艦隊から少し軍医を貸してもらえないかあたってみましょう」
「貴族連合軍側の降伏した中にも軍医はいる筈です、調べてみてください。
軍医などを従事させてよいかは私から確認を取ります」


管制室の室長はデーゼナー大佐が兼任していたため、代行にを指名してくれたため順調に動き始めた。
中には当然彼女より階級が上で、従う事が不服そうだったものもいた。
しかし、大佐の強いトップダウンという形をとられ直接反抗するものはいなかった為、突然だったことを踏まえれば上々と言えただろう。
姿勢をピンと伸ばし、椅子に腰掛ける事なく立ち続けながら指示を出す姿に感銘を受け、従おうとひそかに胸に誓ったのだ、と後日に直接話した者もいた。

十数時間後、大方の負傷者の搬入は終わり、一つの山を乗り越えた。
まだまだ、遺体の回収・確認、オーディンへの輸送、入院している者の治療、仕事を挙げ始めたら限が無い状況には代わり無い。
が、これ以上負傷者が増えるという心配が無くなるのは心理的にも大きく、エイル全体に疲労感と達成感がないまぜになった様な雰囲気が漂っていた。
張り詰めた緊張感溢れる空気より、疲れは見え隠れしても遥かに安堵した穏やかな空気の方が呼吸しやすかった。
ずっと立ちっぱなしだったも椅子に腰を降ろした。
ふう、と息をはいた瞬間足が急に重たくなったように感じられた。
高ぶっていた神経が忘れていたものを一度思い出してしまったため、どんなに身体を叱責しようと鉛の様な足は変わらなかった。

「お疲れ様です」

まだ少年特有の高さが残る声が後ろから響いた。
振り向いたの視界に飛び込んで来たのは赤い髪を持った優しげな幼年学校の少年であった。
彼の持つプレートの上には幾つものコーヒーの薫を放つカップが載せられていた。
さすが彼女もここで「紅茶がいい」とは言えないため、大人しく感謝を口にしながら受け取った。
背の高い彼と髪の色がよく似ている少年はニコッと笑って次の人へ配りに行った。
ミルクとシュガーをしっかりと容れてから口に含んだコーヒーは結局コーヒーで苦かったのだろう。

「なにやってるんだか」

色の濃い水面に映る自分は今にも溜息を吐きそうな顔をしていて、無意識に呟いた言葉と共に苦笑が零れた。

(今はまだ振り返る時では無い)
才覚

09/09/01

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