Lambency
35
9月9日、はデーゼナー大佐から突然の呼出しを受けた。
急ぎ足で赴き、話しを聞いてみれば、至急ガイエスブルグのミッターマイヤー提督のところへ出頭せよとのことで、今度は急ぎ足で移動用シャトルに乗り込むはめになった。
呼出したのがミッターマイヤー提督だったからよかったものの、ロイエンタール提督だったら文句の一つや二つ、いや五つや六つ並べてしまうところだと呟いていたが、そんな自分にはすぐ後悔することになった。
キルヒアイス上級大将、殉職――。
俄かに信じ難い、否信じたくない訃報に足元が崩れ落ちていくような錯覚と衝撃に襲われた。
立っているのがやっとである。
高級士官クラブに連れられ何が待っているのかと思えば、そうミッターマイヤーが静かに告げた。
他にも提督たちがいたが、まるで蝋人形にでもなった様に、覇気無く座っているだけである。
豪華絢爛な場所になんとも不似合いな重苦しい静寂など、設計した者は想像しなかったことであろう。
ロイエンタールもそこに居るが、テーブルの上にあるコーヒーカップを意味も無く見ているのか、思考の瞳で耽っている。
「そこで、卿にはしばらくローエングラム侯の世話を頼みたい」
ミッターマイヤーが申し訳なさそうに続ける。
提督等の中にミュラーを見つけたがの心は浮かない、今はただ新しく入ってくる情報の処理に頭を動かすので手一杯である。
「給仕と健康管理を兼ねて、控えていて、様子を見ていて欲しいのだ。他の誰かでも良かったのだが、顔見知りの卿の方が侯も落ち着くだろう」
あまりにも突然過ぎる報せと、突然過ぎる提督からの願い。
は返事に窮した。
そこに拒否権があっても発動させる事が出来る程彼女は強くも無ければ、その場を逃げ出す程弱くも無かった。
この場合、無言が了解の意味を持たないことなど非凡な彼等は充分承知していたが、手の打ち様が無い自分達に罪悪感を感じながらそれを無視するほか無かった。
「曹長、案内しよう」
ミュラーが静かに立ち上がり、ミッターマイヤーと視線を交わして頷いた。
致し方無く、は無言で先に歩み始めていた彼に続く。
「頼む」とだけ後ろからミッターマイヤーに声をかけられ、は振り向き敬礼をした。
「了解しました」
不意に何か懐かしい感覚が胸に沸き上がって、無意識には小さく微笑んだ。
深い悲しみの中にどんな状態であれ提督たちに頼られた喜びが僅かに入り込んだのだ。
ユニオン時代に培った戦闘機のパイロットに大事な要素が役立つときが来たのかもしれない、それは魔法の呪文の様にの心を落ち着かせた。
(今の私に出来るだけのことをすればいい)