通り雨

往 6

雨はまだ降っていない。
カラッと晴れた空を憎く思う気持ちは無いが、慣れ親しんでいない場所にずっと留まるのは心身ともに疲弊していくことには変わりない。は腹の底から重い溜息を吐き出した。昨日の話通り、どこまで都合よく進んでいくかは未知数である以上焦っても意味が無いと分かっていてももどかしいものはもどかしい。



は珍しく幸村と朝餉を摂っていた。給仕係には忍びである筈の佐助がつくという世にも奇妙な食事だとは思った。勢い良くがっつく幸村の姿は若さ溢れる青年そのもので、自分と同い年と知ったときは驚いた。生まれや育ち、時代や環境が違ってくると人はこれほどまでにも違うのかと。自分と変わらない歳で多くのものを背負い、見据えているのである。己が未熟であることを幸村は恥じていたがそれを言われたら自分の立場など微塵も無いとが困ったものだ。
お残しはしないが、よっぽど腹が空いていなければおかわりもしないは食べ終えて静かに箸を置いた。それに気がついた佐助がすかさず茶をついでくれ、至れり尽くせりである。

「ありがとうございます」
「まーね、どういたしまして」
「佐助!俺にも茶を」
「はいはい」

夫婦の様なやりとりに思わずが笑みを浮かべた。それに気がついた幸村は笑みの理由を理解できずに不思議そうな表情をした。

「いいえ、幸村さんと佐助さんは本当に仲が良いんだなあって」
「うむむ、幼き頃よりの付き合いであるが故。それよりも某は殿がまさか、お館様の旧友の親戚であられたとは」
「私も驚きました。まさかそんなところでつながりがあったとは」
「是非、某にも殿の国の話お聞かせ願いたい!なんでも非常に文明が発展しており、女子も男子同様に政にも関わるとか」
「あ……、はい。そうですね、一応、やっぱりまだ女性の方が不利な場合もありますが、昔に比べれば遥かに政だけでなく関わる仕事の幅は広がってますね」
「もう旦那、ちゃん困ってるでしょ。難しい話を朝っぱらからして楽しくない」

佐助に諭されて幸村がぐっと押し黙る。

「『他人を守ってこそ己を守れる』」
「ん?」
「……これはあまり国とか関係無いですね、ごめんなさい。でもよく曾祖母に言われる言葉です。他人を守ると一概に言っても、千差万別。女性には女性の戦い方守り方もあるけれど、女性らしさに固執する必要があるわけではありません。男性同様政のために筆を持つのも、治安を守るために武器を扱えるようになるのも、己で選択することができます。そういった点では、それが当然となっているので男性が女性に抱く価値観はきっと驚くほど違いますよ」

佐助と幸村が幾度も瞬いた。

「すっすみません、なんか偉そうに話しちゃって」
「いやいやいやいや、凄い立派だった。ごめん、ちゃんが想像してたよりもしっかりしてたものだから」
「え、えー……」

パチっと小さな音をたてて、幸村も箸を置いた。そのまま幸村は僅かに逡巡したものの、すっと視線を上げてを見つめた。

「……他人を守ってこそ己を守れる。良い言葉でござるな」

真っ直ぐな瞳でかみ締めるように紡がれた言葉には黙って頷いた。



2013/01/04