通り雨

来 2

拭いたからとは言え濡れ鼠のままではいくらなんでも、ということで適当に見繕った理一おじさんの浴衣を手渡したのは先ほどのこと。お茶を入れ、たまたまあったみたらし団子も用意しお膳に置いておいた。
手馴れたもので、待たずして幸村は部屋から出てきた。



茶をすすり、一息ついたところでと幸村はお膳をはさんで向き合った。

「で、その、幸村さんは、どうしてここに?」
「う、うむ。某もよく分からぬのだが、裏山を散策していた折、雨に降られ下山したところ」
「ここに下りてきたってことですね。なんというか不幸中の幸い、うちで良かった、のかな」
「不幸中の幸いなどと!某は殿に再びお会い出来たことを……!」
「……う、うん。そっか、なら良かった。私もまた会えて嬉しいし」
「左様で御座るか!某、殿のことを思い裏山を歩いていた故、願いが届いたのかと…………はっ、殿がご無事で何よりでござる!」

身を乗り出してきた幸村に合わせて身を引いたが、ん?と首を傾げた。

殿が忽然と姿を消したため、みな心配したでござる。始めは何がおきたか分からず何者かに攫われたのではないかと。雨と気がつくも、無事か定かでもあらず」

そうだった。
は今になってあの日のことがなんとなく蘇り始めた。
あまりにも突然で、けれども自然でなにも違和感がなく気にも止めなかったが、あの日自分はどうやって帰ってきたのか。気にも止めるほどのこともなく、気がついたら戻ってきていたのだから仕方ないといえば仕方ない。



あの日、朝から天気が優れず今にも降りだしそうな重い雲の下鍛錬を行う幸村を眺め、その後一緒に朝餉をとり、幸村や佐助と一旦別れた。
特にすることもないため、借りた仮名で書かれた歌集に目を通してみるも相変わらず一人では全く歯が立たず諦めた。借りている本数冊をまとめて、机の端に揃えておく。部屋の片付けをするほど物も無いため、これ以上することもなく、さて今日もいつも通りの手持ち無沙汰である。
先日幸村がくれた櫛は気軽に使うには惜しいが、櫛もなく使わないのも逆に悪いと思い切って使い、いつも懐に大事にしまってある。
今もあることを確認して、ほっとする。
ふと空を見上げると朝以上に空が暗くなり、空気が湿り気を帯びてきていた。

そして、次に意識を違うところへ向けたときには、大雨の降る裏山に立っていたのだ。


2013/01/06