通り雨
来 3
きっと、土のぬかるみ具合から大雨が振り出したのはある程度前だということは察せた。けれども、は明らかに『今しがた』から雨で濡れ始めた。
何よりもあの時取りに戻った乾いた麦藁帽子手に持っている。
(わけがわからない)
自分も、麦藁帽子も夕立によってびしょびしょになったはずだった。
見える風景も、目の前にある家も全部見慣れたもの。
さっきから時間は大して経っていないように思える。
そもそも、おかしな話である。
だが、さっきまでの記憶は、思い出は確かにある。
わずかな時間でも立ち尽くしていた間に、は再びびしょ濡れになり、体温が下がり始めるのを感じていた。
「あ、そうだ……雨だ」
は記憶を手繰り寄せた時引っかかったものが何だか分かった。一度外へ視線を向けると、先ほどまで降っていた大粒の雨は霧雨の様なやわらかいものに変わっていた。
「雨、でござるな」
「うん。私も、そっちへ行くとき雨に降られた。帰ってきた日も。栄おばあちゃんの時もそうだったらしい」
「……して、某が、こちらへ来る前、雨が降り出した……」
「これって、つまり本当に雨が関係してる?」
幸村もと同じように外へ顔を向ける。
遠からず止みそうな空に、幸村はわずかに眉を寄せた。
そんな幸村には気がつき、努めて明るい声を出した。
「あの!……幸村さんさ、確かに不慣れな場所で不安かも知れないけど」
一度言葉を区切り、身体を幸村へ向きなおし崩していた膝も直した。
つられて幸村もと対峙する。
「私がいるしさ、それに、この季節ならすぐまた雨降るからきっと。ゆっくり、ここで過ごして下さい」
「……!かたじけのう、ござる!」
「えっ、いや、そんな、当たり前のことだし。……その、以前の恩返しくらい、に、思ってください。ね?」
座布団からおり、勢いよく礼をする幸村には戸惑うしかない。頭を上げてくれと頼んでもなかなか言うことを聞かず、どう説得したものかと必死に思いつく言葉を紡ぐ。しかし!と食い付く幸村に、「しかしもかかしも無しです」と言ったところで、ふわっと幸村が顔を上げた。どこか綻んだ微笑に、はどきりとする。
そしてもはっとした。なにやら懐かしいものがよみがえる。合わさった視線同士は、いつの間にか笑いが溢れた。
「そういうことで、幸村さん」
「うむ!」
2013/01/07