通り雨
来 5
いつの間にか、雨は止み、空は晴れていた。
じきに陽が傾き始めれば、涼しさが増すこの季節。
虫の鳴き声が近そうだけれども大きすぎず、響きわたる。
濡れてぎしぎしになった幸村の髪を、がもらった櫛で梳けば高まる思いがあったのか、幸村が興奮気味に溢れるほどの感謝を述べてきた。大人びて、以前以上に距離を感じていたがほっとして、笑いがこぼれてしまった。逆に、それを幸村が不安がる姿に懐かしさが広がった。あの時の幸村は、今目の前にいる幸村と同一人物以外で他ならない。
「落ち着いてて、ちょっと焦った。でも、今安心した」
幸村に胸の内を話せば、幸村も。
「以前より遥かに大人びてて、戸惑っていた」
と、打ち明けてくれた。二人して、互いの変化に戸惑っていたところがあり、それがおかしくて今度は二人で笑いあった。
「この板はっ……!」
先ほどから来たちびーずに幸村を任せることにした。なるようになるだろう。テレビに大慌てする幸村を余所目には夕飯をどうしようか思案する。やはり和食が良いだろう。ちびーずが愚痴りそうだが、もうそれが易々と許される歳でもない。ちびーずだって、もうさしてちびーずではないのだから。
理論も何もない、強引な説明を幸村が必死に聞き理解しようと努めている。案外良い組み合わせなのかもしれない。次にリモコンの説明を受け、また絶叫する。久しぶりのにぎやかさかに、今日は腕によりをかけて作ろうとこっそり誓う。
「よっし」
やるか、とは立ち上がり、夕飯の支度をするからと席を立った。幸村が、殿の手料理が云々言っているが気にしない。エプロンを手に取り、自分の戦場へ足を向けた。
煮物がいい感じに出来そうで、気分も良かった。幸村の好物はなんだろうか。聞いて、家になかったとき申し訳ないから下手に聞けない。今あるもので効率と手順と見栄えを考え、どうしようかと脳内で組み立てる。そのまま、台所でしばらく支度をしていた時だった。
「あ、雨また降ってきたー」
ちびーずの間延びした声には背中とお腹がヒヤリとした。まさかと思い、火を消し、包丁をまな板に寝かせ手も拭かずに居間へ急ぎ向かった。
2013/01/11