私的まほろば
10時のおやつ
「きゅうり、うまー」
縁側に腰掛けぶらんと足を垂らす、日陰と風鈴の相乗効果でより涼しく感じられる。またよく冷えたきゅうりが美味しい。しゃりしゃりといい音がするのは新鮮な証拠、なにせばあちゃん家の取り立てきゅうりだから。お盆に載せられた氷たっぷりの麦茶がよく合う。
「……幸せそうだね」
佳主馬が語尾に溜息を交ぜながら呟いた。私と同じ姿勢でついさっきまで黙々と食べていた彼のきゅうりはもう残り少なかった。やっぱり美味しいものを誰かと食べるというのは偉大だ。比較的食が細い佳主馬だってペロリと食べさせられてしまう。
「んー、幸せだよー。佳主馬は幸せじゃないの?」
「別に」
最後の一口を食べて、佳主馬は麦茶を一気に飲み干す。
「きゅうりがあって、佳主馬がいて」
ジロっと鋭い視線が急に刺さる。
「俺ってきゅうりと同レベなの」
相変わらず素で可愛い事を言うなあと思いつつも口には出さないで「違う違う」と笑いながら否定してあげれば、非難の視線がおさまる。口と違って余りにも素直な瞳が面白くて、今度はわざと口に出してみた。
「後は王子様がいれば完璧なのになあ」
「理一おじさんだろ」
にやっと思わず笑ってしまった。どうやら最近こういった行動がおじさんに似てきた気がしてならない。面白いから、からかいたくなる気持ちが分かってきた。歳をとったなあ、しみじみ考えていたら佳主馬はムッとした表情で再び黙りこくってしまった。年頃の少年をいじめ過ぎたかな、と僅かに反省の気持ちもよぎらないこともないけれど、そんな彼の隣にいるのが楽しくて、どうでもよくなってしまう。
「麦茶も美味しー」
よく冷えた麦茶が勢いよく喉を通るのが分かる。カランといい音をたてながら口元にやってきた氷を一つ頬張れば、ガリガリと豪快な音がする。立ち上がり、佳主馬の頭をワシワシと撫でて――以前彼に、髪をぐちゃぐちゃにするだけの迷惑行為と言われたが――、お盆をとって私は台所へ向かう。
「姉ちゃん、」
くるりと振り返ればまたいつもの何か言いたげな佳主馬。なあに、と促してやれば、一語ずつ日本語を確かめながら話す外国人の様に彼は話し出した。
「そのさ、きゅうり、美味し、かった」
「でしょ?」
また食べようね、と私が笑いながら言った時の彼は褒めてもらえて照れた小学生みたいに可愛く小さく笑った。
(10/02/12)