私的まほろば
感度は良好です
この音、間違いない!
妖怪レーダーよりも正確な私のアンテナがそれをしっかり受信した。私の王子様で小さい頃、いつも面倒を見てくれた理一おじさん。侘助おじさんが大好きな夏希の事を馬鹿に出来ない、私の初恋相手。
「来た!」
「来たって何が」
「王子様」
「ああ、理一ね。耳がいいのは分かったから、ほら手を休めないで」
「そ、そんな!迎えに行って来ます!」
「迎えなんていいから、働く働く」
万里子おばさんに制止されてしまえば、いくら陣内家のリベロと呼ばれるであっても敵わない。うぐぅ、と情けない声をうっかり漏らしてしまったのはご愛嬌だ。ついでに言えば、たまねぎのマリネを作っているのも加わって涙は本物である。相手が兄である翔太であれば「馬鹿野郎、貴様のせいだぞ」とかなんとか文句の一つ二つは垂らせて気が紛れるが、何せ相手は万里子おばさんである。
「ほらほら、そんな泣いてないで手を動かす!お客さんだって来てるんですからね」
「お客さん?ちと早くないですか」
「なんでも夏希の婚約者だそうよ」
へー婚約者かあ、最近の子は早いですねー、とか適当な返事をしたらおばさんに珍獣を見つけてしまったような目で見られた。そこで私はようやく気がついた。
「あ!」
「、アナタだって昨年までは高校生だったんでしょう。
それとも、年齢でも誤魔化してたんですか、ほらまた手が止まってますよ」
そういやそうだった、素でポロリと零れてしまった言葉におばさんは大きく溜息をついた。幸せ逃げてっちゃいますよー、とはさすがの私も言えない。
「ただいまー、おっ何、あんたが手伝ってんの!」
理香おばさんがエプロンを身に纏いながら台所へ入ってきた。これは貴重な映像が撮れる!なんて爆笑しつつ言うなんて失礼だ。この短時間で私は再び珍獣にされてしまった。
「じゃあ、理香この後はよろしくね。私はまだ他にやることがあるから」
そう言って万里子おばさんは去っていった。ならば私も、とは上手くいかないのが家族である。
「作り途中で逃げるんじゃないわよ」
「はーい」
伊達に眼鏡を掛けてない理香おばさん、いや、別におばさんの眼鏡は伊達じゃないけれど。
「眼鏡で悪かったわね」
別に声に出してない筈なのに、何故考えていることがばれたのか。
このおばさん侮りがたし。
「まったく、馬鹿なこと考えていないで作りなさいって」
さっきの続きなのか、はたまた『侮りがたし』についてなのかは分からないが、とりあえずギクリとして私の肩が跳ね上がってしまったのは事実だ。ああ怖い、怖い、いつもお兄ちゃんやお父さんが、「うちの女性陣は強い」と言っている意味が良く分かる。栄おばあちゃんの影響も強いせいか、何かと女性が主導権を握る陣内家。私もその一人なのかなって思うと、楽しくも苦笑したくなる。
「おやおや、姉ちゃん今日は珍しいのを助手につけてるね」
包丁をまな板において、くるりと回れ右をすればそこには私の王子様。(やっぱり王子様は私のことを迎えに来てくれた!)今の私はきっと少女マンガのヒロイン宜しく、瞳がきらきら光っているに違いない。
「コラ!」
すかさず飛んでくる理香おばさんの声なんて私には関係ない。
「理一おじさん!」
「久しぶりだね、。相変わらず元気そうだ」
「そりゃ、理一おじさんに会えたもん!さっきまでは涙をはかなげに流す乙女でしたけど、愛を目の前にして弱気ではいられません!」
ぶっ!背後で噴いてから肩を震わせて笑っているのは理香おばさん以外の何者でもない。理一おじさんは苦笑してから、台所を見回して、
「たまねぎを切っていたのか。使うか?」
そう言って首から提げていたゴーグルを差し出してくれる理一おじさんが今日も大好きです。
(10/02/16)