私的まほろば
猫の手よりはまし
旧家の出身、現役東大生、アメリカ留学――
どこかで聞いたことがありそうな経歴に圧倒されつつ、健二くんと呼ばれた彼をは見る。どう見ても年下にしか見えない彼に首を傾げつつ、コンプレックスだったら悪いと口には出さないでおく。まあいいや、と言わんばかりに隣に座る理一にビールを勧める。コップに手を添えた理一と目が合い、何か言いたげなのを感じてそっと顔を近づけた。
「彼、ちょっと若すぎるね」
すっとまた自然に離れて、また目を合わせる。
「私もそう思った」
互いにどうしたものかとアイコンタクトで会話し、苦笑するが、ビールをコップに注いで終わりにした。夏希に紹介された時、営業スマイルで答えると理一が小さく笑っているのが分かった。
ちびーズと夏希はお風呂。
健二さんは居心地が悪かったのだろうか(まあ、あまり良くはないだろう)ひょっこりどこかへ消えてしまった。はというと、まだまだ細く長く続いている大人たちの宴会の準備をして(させられて)いた。お膳の上を片付け、酒の肴だけにする。下げられた食器は万作おじさんちの三兄弟のお嫁さんたちと洗う、拭く、片付けると仕事を分担する。万理子おばさんは熱燗を作ったり、下げたりといつもの通りキリキリしている。
なにやら宴会場が賑やかになったら急に静かになって、何かあったのでは!と野次馬精神で顔を出したくなったのだが、私だけ抜け出すのも悪いとぐっと堪える。何度目か分からないがまた食器を下げに来た万理子おばさんいわく、侘助おじさんが10年ぶりに帰ってきたらしい。それじゃあ賑やかにもなるし、静かにもなるはずだ。事情が良く分からないお嫁さんズは、理香おばさんのばっさりなまでに遠慮のない説明を受ける。もともと知っている私は驚かないでさっさと仕事をしていたので、珍しく万理子おばさんに重宝されているらしい、こっちの方が驚きだ。それと、直美おばさんはここでタバコを吸わないで欲しい。
お風呂が空いたので、私も入って、上がったら今度は朝食のお手伝い。直美おばさんはタバコをやめて、手伝っていたのにまた驚いた。(そして、それを口に出したら怒られた)万理子おばさんとジャガイモの皮をむいているときに彼、健二さんが台所に顔を出した。
「今日はご馳走様でした。先に休ませていただきます」
ペコっとお辞儀する彼はやっぱり年下にしか見えない。健二さんが去ったあと「爪の垢を煎じて云々」なんて会話を、私に視線を送りながらしないで頂きたいものだ。
(10/02/17)