私的まほろば
混乱と停滞
「やっぱり、年下だったね」
「ああ」
縁側の日陰になっている部分に二人で腰掛ける。隣にいる理一おじさんは苦笑交じりで頷いた。
「なんかさ、良く分からないけど、違うと、思ったんだ」
「彼が犯人じゃないって?」
「うん。でもやっぱり、違わないのかなあ」
「そりゃ、今は誰も分からないな。彼は否定しているし」
「あーあ、明後日はおばあちゃんの誕生日なのに」
ゴロンと後ろに倒れて、寝転がる。床はひんやりとしていて心地が良くて、軽く目を閉じれば風にゆれる木々の音が爽やかに飛び込んでくる。
「こんなところで寝たら風邪ひくぞ、」
「大丈夫、眠くは無いから。……掃除、手伝わなきゃなあ。テンション上がらないなー」
理一おじさんは私の髪を何度か梳く。もう小さい子供じゃないから照れてしまうけれど、この手がなくなったら私はきっと寂しいだろう。
「ねえおじさん、」
「ん」
「なんかこう、ぱーっと花火やりたい」
「今日の夜やったら、母さん怒るぞ」
「そーだよねえ……、でもやっぱり買いに行って来ようかなあ」
今度はぽんぽんと掌で頭を叩かれた。
「誕生日会の夜にはやりたいだけやれるから、我慢しろ」
「……はーい」
会話が途切れた直後携帯がブーブー唸り、画面を確認すればお兄ちゃんから。
「ただいまこの回線はジンノウチショウタからのみ、受け付けておりません」
<<馬鹿言ってんじゃねーよ、!こっちはすげー渋滞でイライラしてんだ!>>
「それを人は八つ当たりというんだよ。どこのチンピラですかこの野郎」
<<ちびは黙ってろ>>
「ん、じゃっご要望通り電話切るね。てか、なら私に電話掛けないでよ」
<<親父出ねーんだよ。ったく。……全然車が動かないんだよ、>>
「ああ、もうその車駄目だね、ご愁傷様、どんまい」
<<だから違うっ!渋滞で、動かねえんだよ!渋滞どこまで続いてんのか調べて連絡よこせ、いいな!絶対だぞ!>>
ブツッ
会話を聞いていた理一おじさんは小さく笑って、「んじゃ、確認取ってやるか」と言って、奥に消えていってしまった。また一人になった私も致し方なく、ゴロンと一回転して人肌に温まっていない冷たい床を再び満喫したあと、手伝いの指示を貰いに台所へ行くことにした。
「あれー、誰もいない」
なら花火を買いに行ってもばれまい、なんて考えた瞬間、リビングから万理子おばさんのヒステリック気味な叫びが飛び込んできた。一瞬、花火のことがバレたのではないかとひやっとしたが、どうやら違うらしくほっとする。そして今、別に台所にいて何かをするわけでも無さそうだったので、今度はリビングに顔を出す。
「どーしたのー?」
全体に問いかけたのが悪かった。人々がいっせいに話をしてくれたが、生憎、いくらこのといえど聖徳太子には敵わない。なんでも色々と事情はさまざまあって今日来れないようだけれど(要は、皆好き勝手に話して満足して去っていったから良く分からなかった)、私にとって一番重要そうな情報は紅白饅頭が余るかもしれないってこと。(でも最悪饅頭すら届かないかもしれないらしい、これは由々しき事態だ)すっかり忘れていたが、お兄ちゃんと健二くんは現在、話題の交通渋滞の真っ只中。イライラしたお兄ちゃんと車の中で二人っきりだなんて、健二君も踏んだり蹴ったりだ。
(10/02/26)