私的まほろば

たまには背筋を伸ばしてみる

私は桶に水を張り、足を突っ込めば完成、お手軽涼みセットでのんびり一人寛いでいた。皆はピリピリして面倒だから、近寄らないに限る。



気がついたら栄おばあちゃんが後ろに立って真面目な顔をしていた(いや、いつもおばあちゃんは真面目な顔だけど)声を掛けられて、続けて手招きされたのでそっちに向かうと、おばあちゃんは黙って自室に歩いていってしまった。来い、ということだと解釈して足を拭いてから部屋まで行ってみると座布団が二つ。片方には既におばあちゃんが座っていて、空いている方に座れということらしかった。一応気を引き締めて正座したけれど、夏の暑さですぐに溶けてしまった。

「どーしたの?」
「暇そうなのが、あんたしかいなかったからね」
「え、えー……」
「冗談。、あんたはカリカリしてなかったからさ」

(それが私の売りですから)と喉まで出かけたがぐっと押し戻して、へらりと笑う。するとおばあちゃんは豪快に笑った。

「まったく、あんたって子は」

どうやら心の声は、漏れていたらしい。



おばあちゃんの古い手紙たちを引っ張り出した。まずは一番身近な人である、万作おじさんちの三兄弟、頼彦おじさん、邦彦おじさん、克彦おじさんに喝を入れる電話をする。その間に私はおばあちゃんの古かったり新しかったりする手紙や年賀状と手帳を睨みながら、連絡が取れそうな大物にどんどん付箋や栞をはさんでマークしていく。(栄おばあちゃん、本当にすごい人脈)国土交通省官僚の人、良く分からないけどやたらメモ欄に色々書いてある曽根さん、警視総監の小幡さんなどなど。どんどん湧いて出てくる人々を私はドキドキしながら横目でおばあちゃんを見る。背筋はピンとしていて、はきはきしゃべる姿はとてももうすぐ90歳になる人には見えない。

おばあちゃんを見て、眩しいと思った。行動力があって、そして誰もがついてくる、ついていきたくなる人。今、ただ横で手伝っているだけなのに、私はこんなにも感動している。昔はカリスマ性とかそういう言葉はなかったかもしれないけれど、きっと多くの人がおばあちゃんに強い力を感じたに違いない。引き出しから出てきた色んな人が写っている大量の写真の中から、一番底にあった一枚に目が留まった。白黒写真に写ったはかま姿の女性はきりりと引き締まった表情に、芯の通った瞳。写真越しに目があっただけなのに、「しっかりしなさい!」って言われたような気がして、ドキリとする。つられて再び気を引き締めてしまう。

ガチャン

電話を切ったおばあちゃんは優しく笑っていた。
つい今しがた見たあの瞳と重なった。

「ねえ、これっておばあちゃんの若いころ?すっごい素敵」
「また懐かしいものが出てきたね。でも今じゃこんな老いぼれ婆さんだよ。さて、次は誰にかけようか」

(何を仰るおばあちゃん、眼差しは若い頃のままじゃないですか)

(10/02/28)