私的まほろば

それは噛み合わないまま

息の合った絶妙なコンビネーションで、佳主馬と健二くんの説明を兼ねた会話が進んでいった。

ラブマシーン

うちのとぼけた父さんは放っておけても、AIのラブマシーンは放っておけない、らしい。正義感の強い彼ら二人は。佳主馬のノートパソコンを中心に取り巻いた陣内家の人々も、侘助おじさんの一言で振り向かずにはいられなかった。

「残念だけど、そりゃ無理だよ」

賢そうな侘助おじさんが言うと説得力があるなあ、と思ったのは微妙に見当違いだった。悔しい佳主馬が食いついて、侘助おじさんは大したことじゃ無さそうに言ってのけた。

「だって、それ開発したの俺だもん」



思考が一瞬止まってしまった。横で理一おじさんがすっと立ち上がったから、意識を取り戻したようなもんだった。侘助おじさんがあのラブマシーンを作った、とても簡単な情報なのに、理解しきれない。

「ああ、俺が開発したハッキングAI。俺がやったことはただ一つ、機械に物を知りたいという本能、『知識欲』を与えただけだ」

もう、完全に私の頭は追いつけない。やっぱり日ごろから怠けているのがいけなかったのかもしれない。けれど今はそんなことどうでもいい。言葉は音として入ってくるけれど、理解出来ないまま通り抜けていく。違う、もっと今、重要なことが他にある気がする。侘助おじさんがおばあちゃんに自分の功績を説明しているらしい、まるで褒めて欲しい子供の様に。(ああ、気がついて侘助おじさん!)

栄おばあちゃんが急に隣へ消えていったと思えば、薙刀を持って帰ってきた。夏希が察して叫ぶ。構わずおばあちゃんは薙刀を振り回した。

「侘助、今ここで死ね!」

おじさんの表情がみるみる変わっていく。大切な絆が切れる瞬間を見たくない、聞きたくない、けれど目はしっかり見開いていて、身体は動かないから耳を塞げない。

「帰ってくるんじゃなかった」

侘助おじさんの背中が寂しすぎて、いつの間にか溜まっていた涙が溢れ出した。こんな時、この感情をどうしたらいいのか分からない。隣に誰かが腰を下ろした、理一おじさんだった。普段よりちょっと強いくらいに頭を撫でられた。(そういえば、理一おじさんと侘助おじさんって同い年)なんだか理一おじさんの虚しい気持ちが分かった気がして、余計涙が流れてきた。

「泣き虫
「私の分だけじゃないから」
「ははは、そうか」

ぎゅっと一瞬だけど肩を抱かれたとき、耳元でぼそりと聞こえたそれを私は一生忘れられないかもしれない。

「(ありがとう)」

(2010/05/08)