私的まほろば

一難去って

「あーあ、片付けないとね」

目元を指で拭って、にっこりと理一おじさんに笑いかける。「そーだな」理一は頷いてから立ち上がり、に手を差し出した。

「ありがとう」
「どう致しまして、姫君。しかし、これは大変な作業だぞ」
「畳、染みにならないといいけど」

大きなお皿の上に手づかみで畳に落ちている料理を載せていく。手がぐっちゃりになるがこの際、そんなことは言っていられない。男性陣がお膳を一通りきれいにした後、他所へもって行った。

「奈々さん、かなちゃんは?」
「ありがとう。あの子ぐっすり寝ちゃってるから。……ねえ、ちゃん。こういうことって偶にあるの?」

作業をやめずに会話していたが、思わず手を休めてしまった。

「無い無い。そりゃ、喧嘩は何度かあって、こーなっちゃうことは稀にあったけどさ。こういう家族がパックリしちゃうことは初めてかな」
「そっか、ごめんねこんなこと聞いて」
「奈々さんも驚いたでしょ、私も驚いた。この家族、なんだかんだ言っても仲良いからね」
「そうよね。いつも賑やかで明るいからさ、びっくりしちゃった。……おばあ様大丈夫かしら」
「曾孫の私に言われるのも可笑しな話だけど、おばあちゃん気丈な人だからね。でも、実際のところどうなんだろう」
「あと、夏希ちゃんも。とても懐いてたみたいだったけど」
「懐いてた、懐いてた。私が理一おじさんにどっぷり並みかそれ以上に」
「まあ」

奈々さんと顔を見合わせて、笑った。

「でもいい家族よね。今だって、結局こうやって一緒に片付けしてるもの。だからちゃん、大丈夫。そんな不安そうな顔しないで」

私はまだそんなに不安そうな表情をしていたのだろうか。起きているチビたちがいるから、出来るだけ明るく振舞っていたつもりだったのに、やっぱり大人たちには分かってしまったらしい。おぜんを運び終えて戻ってきたらしいお兄ちゃんが「泣き虫は泣き虫らしく泣いてりゃいいんだよ」と背後を通っていくとき吐き捨てていった。もう涙は収まった筈なのに、また涙腺が一気に熱くなる。手は料理でべたべただから、拭えそうに無いけれどもうそれで構わない。

「ありがとう、奈々さんっ……。あたし、ほんと泣き虫だからさ、」


(なんだか、悲しいのか嬉しいのか分からないや)

(2010/05/09)