私的まほろば
気丈と笑顔
苦しそうにしながらも、うっすら目を開け、栄は微かに笑った。だが、の手だけはしっかりと握り「大丈夫」と語りかけるようであった。は両手でしっかり栄の手を包み込む。笑ってといわれても、は笑い方を思い出せない。分からなくて首を横に振り、ただただとめどなく溢れてくる涙を流すしかない。
「おばあ、ちゃっ……ごめっ」
「みん、なを、よろしく、たのんだ、よ……」
言い切った後、栄はしっかりと笑った。
それは朝顔の咲きっぷりが見事で喜んだとき、翔太の警官服姿を始めてみたとき、古い友人が家を訪ねてきたとき、や夏希たち曾孫の卒業式や入学式と人生の節目に立ち会ったとき、そんな時に見せる笑顔となんら変わらなかった。そしてそのまま柔らかな瞳にそっと眠るように瞼を下ろした。
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、おばあちゃん!いやっ――……!」
が朝とは思えない声で、叫ぶ。しかし、さっきまで確かに感じていた栄の手から握り返してくる力が消えていった。
「おばあちゃん!」
「!どうしたっ……ばあちゃっ!」
部屋に飛び込んできたのは邦彦、その後ろから不安そうに加奈を抱えた奈々。邦彦はすぐさまと布団をはさんで反対側に座り、もう一方の空いていた栄の手首を持ち上げ、脈を調べた。
「おばあ様……」
奈々が涙ぐみながら近づき、栄をそっと見下ろした。
「奈々、すぐに皆を集めてくれ。親父と兄さん、万理子おばさんを優先して早く!」
「わ、わかったわ。加奈、置いてくね」
は何がなんだかさっぱり分からなくなり呆然と、力無く、徐々に冷えていく栄の手を握りしてめているだけであった。涙は頬を伝い、膝を湿らせていく。そんな時、邦彦がの肩をそっと掴んだ。
「、」
顔を上げ、見つめた邦彦の瞳も濡れていた。互いに頷きあったあと、はそっと栄の手を布団の上におろした。邦彦は一人で心臓マッサージを開始している。膝に騒ぎでなんとなく起きていた加奈を抱き、栄の指を握らせた。
「栄おばあちゃん、だよ」
「おばあたん……?」
「うんっ」
ゆっくりとした動作で、不思議そうにを加奈は見上げた。
「泣いてるの?」
「えへへ、お姉ちゃん、泣き虫だから」
バタバタと賑やかな足音が近づいてきた。
「ばあちゃん!?」
頼彦と典子、そしてまだ眠そうな子供たち。続け理香子に万理子。奈々が起こして回った人たちがどんどんと集まりだした。は後から来た人々に場所をゆずり、そっと縁側まで下がった。
(2010/05/11)