私的まほろば
夜は明けた
は障子に軽く体重を預けて、栄の布団の周りに集まった人々をただ見つめていた。
「みんな集まってるな。……5時21分」
いつの間にか全員集まっており、それを確認してから万作おじさんが、栄最期の時間を告げた。気がつけば涙は引いていて、ただ頬を強張らせて先ほどまで泣いていた事を思い出させる。太陽が昇り始め、あたりは一気に明るくなっていくにも関わらず、陣内家は暗く寒々しい。
「、お前ばあさんの傍にいてくれたんだってな」
縁側に腰掛けて、一服していた万作が思い出したように声をかけた。一体どれだけぼけっとしたまま時間が経ったのか、はとっさに分からなかった。陽はしっかりと山から上りきっていた。
「……うん」
「そうか、ありがとう。一人じゃなかった、それだけで、十分だ」
慣れた手つきで、万作が携帯を開き、操作する。
「狭心症でな、ニトロ処方してた。これで体調をモニターしててな、心拍・血圧・発汗、異状があればすぐにアラームが上がる仕掛けだが……、昨晩からデータが送られてない」
万全を期していた筈だったのに、身内の失態で全く意味を成さなかった。パタンと寂しげな音を立てて携帯がたたまれた。
「OZの混乱……。盗まれたアカウントのなかにシステムの関係者がいたんだ」
「じゃ……じゃあ、いつも通りなら助かって……」
「いや、もともと調子は良くなかった。寿命……だろうなぁ」
万作は諦めまじりに紫煙をくゆらせた。万助が腹立たしそうに柱を叩き、がなる。
「んだよ、納得いかねえよ!侘助はどこだ!?とっつかまえて締め上げてやる!」
「それが……翔太の車で昨夜出て行ったきりだ……。10年も家を離れていたんだ、誰も連絡先なんか知らないよ」
離れた場所から恭平が泣き出した。この場に似つかわしくない元気な泣き声が、を現実に無理やり行き戻した。
「いつもみたいに、笑いなさい、か」
は小さく栄の遺言を独語した。それに気がついた理一がそっと隣に腰を下ろし、を覗き込む。
「どうした」
「ううん、別に。ただ、なんかおばあちゃんらしいなって」
「……そうか」
ふっと笑みを浮かべたに理一はいぶかしみながらも、くしゃりと頭を撫でた。は体重をしばらく理一にあずけた。
「顔を、洗わないとな。泣き虫のままだぞ」
「うん」
じわりじわりと気温が上がり始めたころ、ようやく陣内家も緩慢に動き出した。
(2010/05/12)