私的まほろば

笑って笑って

「私だけじゃない、皆もそうなの。邦彦さんも以前言ってたわ。のニコニコした顔見てたら焦ってる自分が馬鹿らしくなるって、あ、その別に変な意味じゃなくてね」

慌ててフォローを入れる奈々には申し訳なく思いつつ、つい笑ってしまった。不意に笑みを浮かべたにつられて奈々も笑った。奈々の笑顔にはすとんと心が一つのところに落ち着くような、安堵を覚えた。(なんか、胸が軽くなった)瞳から溢れてしまった雫を自分の指で拭う。

「奈々さん、『なんていうのか、案外大丈夫そう、かも』」

台詞と一緒に零れたにへらっとした笑み。ふふふ、それ、その笑顔!、と楽しそうに奈々は言った。



「でもまあ、あまり皆食べないから少なめでいいよね」
「そうねえ食欲ないだろうし……」
「じゃあ炊飯器一個でいいや」
「……足りるかしら?」
「足らせる」

ぐっと腕まくりをするような仕草――そもそも半そでなのだから必要ない――をして、意気込んだ。同時に炊ける米5合をどさっとボウルに入れて、手早く研ぐ。その間に奈々は手際よく卵焼きを大量に作る。しっかり一度水を切って、目安まで水を入れてあとはセットして炊飯ボタンを押す。次の仕事は何があるだろうか、ちょっと首を傾げて理想的な朝食を想像してみる。(あ、お味噌汁が欲しいところだ)

「奈々さーん、この陣内、みんなのために一人でお味噌汁作ってみます!」

奈々が一瞬動きを目を見開いて固まった。そして続けて、肩を震わせながら何度も頷いた。

「そっかそっか、うん、頑張って。楽しみにしてる。そっか、うん」
「ねえ、奈々さんなーんでそんなに素敵な笑顔なの?いつもだけど、いつも以上に」
「別に。ちゃんも大きくなったなーって」
「え、そんなに付き合い長くないよね、奈々さん?」

あら?と誤魔化すように奈々が曖昧な表情をしたとき、そこへもう一人加わった。

「ずいぶんと楽しそうですこと。……朝食を作ってくれていたのね、助かったわ。どうであってもご飯は食べないと」

厳しい顔を変えないでつらつらと話しかけてきたのは万理子。よほど泣いたのだろう、目元が真っ赤であった。

「おばさんはまだ休んでていいよ。私たちでとりあえず、ご飯作っとくからさ」
「そう……そうね、他にやることもあるしここはお願いするわ」

そう言ってすぐに去って行った真理子の背中を見ながら奈々が呟いた。

「おばさまにとってはお母様だもんね」
「ちょっと、おばさんにお母さんがいるって事自体がしっくりこないけど、生まれたときは誰だって赤ちゃんらしいしね」

(さてと、じゃあ味噌汁作りますか)

(2010/05/14)