私的まほろば
頼もしい笑顔
トントントントン、包丁をまな板へと垂直にリズミカルに落としていく。なんだか最近料理をしすぎな気がしなくも無いが、野菜の切り方などが目に見えて上達したのだから気分は上々。大量のご飯を食べやすいように握っていくのも、日々これだけ数をこなせば慣れるというもの。朝水出ししておいた麦茶も良い色になっている。風鈴とセミが賑やかさに輪をかける。まだ重たい雰囲気は拭いきれないけれど、朝の鬱々とした呼吸の仕方を忘れそうな空気よりは遥かにマシになったと思う。隙を見て、お盆にガラスのコップを5つ載せ、氷を入れる。冷蔵庫で冷やしておいた麦茶を添えて、陣内家の男たちの戦地へといざ出陣。
「はーい、お疲れ様です。麦茶だよー」
は、思い思いの感謝の返事に思わずにんまりしつつ、邪魔にならないよう気を配りながらコップを各個人の傍に置いた。麦茶を注ぎながらは辺りを見回して、見慣れない人と視線が合い、つい習慣で笑い返した。
「こんにちは」
「あー、どうもです」
近くにいた佳主馬に、どちら様?と問いかけたら健二さんの友人と返ってきた。どうやらこの件に関していろいろとお手伝いいただいているらしい。
「お疲れ様です。ごめんね、さすがにそっちまで麦茶は届けられないよ」
「い、いえ、そんな気にしないで下さい!えっと、…夏希先輩のご親戚の方ですか?」
「ご親戚ですねー、いわゆる又従妹かな?」
「……姉ちゃん邪魔」
「さ、左様でございますか。申し訳ない……」
思いがけない佳主馬の一言に、の胸に何かがグサリと音をたてて刺さったような気がした…のは気のせいだろう。しかし邪魔をしていては意味が無いのでさっさと仕事を済ませて立ち上がる。男性陣がたたみの上に胡坐をかいて座っているのを見下ろして、ふと気がついた。脳裏によぎった可能性を、一度落ち着いて確認してみる必要がありそうだと、一度深めに瞬きをして思考を打ち切る。(後でまた思い出せますように……)
「…姉ちゃん、」
遠慮がちに呼ばれ振り返れば、ちょっと気まずそうに視線を外し気味の佳主馬がこっちを一応向いていた。
「…俺さ、頑張るから。もう、負けない」
『おおー!さすがキング!健二なんかより遥かに男だ!』
まさに場外からの歓声に笑ってしまった。何を頑張るのか具体的には何も知らないが、こんなにしっかり前向きな意志を持った佳主馬を見たのは初めてだったような気がして、それがどんなことでも素直に応援したくなった。
「…頑張って、佳主馬。私はいつだって佳主馬の味方だし、応援してるよ」
へらっと肩の力を抜くように笑ったら、佳主馬も呆れたように小さく笑った。
「…姉ちゃんは頼りないから、こっちのことは俺に任せておいて」
(2010/08/23)