私的まほろば
崩れていく音がする
「。あなた、趣味は掃除だったわよね」
「…えっと、万理子おばさん。それは何か激しい誤解をしてらっしゃるようで……?」
「誤解でも何でも結構。いいわね、全部といいたいところだけれどまずは人目につくところから掃除して頂戴。手を抜かずに、ホコリ一つ無く」
ギロっと迫力ある視線に射られれば否とは言えない。はあーい、とまったりとした返事をすればそれに満足したのか真理子はさっさと次の仕事へ取り掛かった。時間は正午ちょっと前。どうせなんやかんやで散らかってしまうのだろうとは思うけれど、汚くなるのと散らかるのは大きな違いであると思い直して、は気合を入れるためにおおきく伸びをした。
「――っ!」
耳に飛び込んできたのは、叫びとも怒声とも取れる、佳主馬の必死な声。リビングから持ち出した椅子に上り梁を拭いていた手を止め、彼らがいるであろう和室に目をやる。見えるのは立ち上がってなんだか慌てふためいている男性陣の姿。は椅子から飛び降りて、持っていた埃のついた雑巾をバケツにぶち込む。聖美おばさんから借りたエプロンで軽く手を拭きながら小走りで縁側を進んでいく。近づくほどに騒ぎはより鮮明に聞こえてきた…と思ったら急に静かになって、は何故だか不安になった。
「……どう、したの?」
の存在に気付き、はっとしたように見上げた佳主馬が呆然とした声で答えた。
「…ワールドクロックが、壊れて、カウントダウン……?」
「!てめぇもこいつらの仲間かよ!」
「ってどうしたのその顔。いつも以上に見るに耐えないよ」
「ぃ、いつも以上にってなんだいつも以上って…!」
「そりゃもちろん文字通りの意味以上でも以下でも無いよ」
「みんな……!」
新たな参戦者に、その場にあった視線が集まった。走ってきたのであろう夏希は、視線が集まるなか、息を切らせている。
「夏希、どうしたの?」
未だに呆然としたままの男性陣に、何か言おうとするが、なんだかいっぱいいっぱいな感じの夏希。そうこうしている間に、夏希の背後におばさんたちが追いついた。陣内家の大半が広間に勢ぞろいしたとき、健二君が何かに気付いたらしく目を見開いた。
「な、なんで……原子力発電所が……?」
「…これ、『あらわし』じゃないか?」
「『あらわし』と原子力発電所が、どうして……あれ?『あわらし』って確か制御不能状態ってニュースで……」
その言葉きり、嫌な沈黙が落ちる。それを理一が沈黙以上に重たそうな声で破った。
「……大変だ……。在日米軍の秘匿回線で、アラームが上がっている。…日本の小惑星探査機『あらわし』が、制御不能のまま地上へ落下中……」
壮大すぎてイマイチ事の重大性が良く実感できないけれど、きっと今これは、大変な状況なのだろう。いつもどこか余裕を含んでいるはずの理一おじさんが、今は本当に固まっている。夏なのにも関わらず、たちの背筋に冷たい風が触れた気がした。
(2010/08/24)